抄録
奈良県吉野山のヤマザクラの生育状態に,地形によって規定される日照条件が影響しているかを検討した。1993~1994年の奈良県の調査結果からヤマザクラ286個体のデータを抽出し,生育の良・不良を目的変数に,樹齢クラス,生育期の積算日射量,地形湿潤指数を説明変数にして,一般化加法モデルにより解析した。解析の結果,樹齢クラスの老齢樹と日射量が統計的に有意であり,日射量の多い地点ではヤマザクラが生育不良となる傾向が示された。土壌水分に関する測定の結果,吉野山の土壌は保水性が全体にやや低いため,日射量の増加によって,植物に悪影響を与えるレベルまで土壌が乾燥しやすいことが推察された。吉野山では土壌の乾燥が緩和される北向き斜面が,ヤマザクラの植栽地として選ばれていた可能性が示唆された。