抄録
動的離散選択モデルを用いた計量経済分析では,観測されない異質性を適切に扱うことは重要な課題である.有限混合モデルは観測されない異質性を柔軟に扱うことが可能なため,多くの動的離散選択モデルを用いた実証研究において使用されてきた.しかしながら,近年までは,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別の可能性に関しては,研究成果が乏しかったこともあり,否定的な見解が一般的であった.本論文では,Kasahara and Shimotsu (2009, 2014a)の内容をレビューし,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別を可能とする比較的現実的な(時系列の長さ・定常性・一次マルコフ性などの)十分条件を紹介する.また,有限混合モデルにおける要素数の下限値の識別条件とその推定方法に関しても議論する.