スポーツ社会学研究
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原著論文
子どものスポーツ活動をめぐる母親たちの社会関係資本
―なぜ母親たちは「周辺的役割」を担い続けるのか―
宮本 幸子
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2023 年 31 巻 1 号 p. 71-82

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抄録
 子どもが団体・クラブ等に所属して行うスポーツ(以下「スポーツ活動」と表記)においては、保護者に様々な関与・支援が求められる。特に母親は、競技そのものに直接関わらない、子どもたちの世話などの「周辺的役割」を共同で担うことが多い。このような状況に対しては、先行研究においてジェンダーの観点等から問題も指摘されている。それにもかかわらず、子どものスポーツ活動においては、なぜ母親が主に「周辺的役割」を担う構造が維持され続けるのだろうか。本研究は 小学生の母親に対して実施したフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)のデータ分析を通し、社会関係資本の概念を援用してそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。
 FGDは、1)子どもが地域クラブでスポーツ活動をし、母親の関与の度合いも高いグループ 2)子どもが現在、スポーツ活動をしていないグループ の2グループ(計10名)に対して実施した。
 母親たちは、保護者ネットワークで得られる「利益」よりも「投資」の負担を強く認識している。そのため、子どものスポーツ活動における「周辺的役割」に対して自らが労力や時間をどの程度「投資」できるか、判断を試みる。そのためには、「ママ友」を頼りにしたインフォーマルな「情報」収が欠かせない。
 「情報」が得られた母親たちは、それをもとに「投資」の可能性を判断し、スポーツ活動の「選択行動」に移る。「投資」できないと判断した母親はスポーツ活動を諦め、できると判断した母親たちは、その程度によって所属するクラブを「選択」する。このようにして、子どものスポーツ活動においては、同程度の「負担」が可能な保護者同士のネットワークが構築され、そこでの情報はまた既存の「ママ友」ネットワークにもたらされる。結果、各クラブの「周辺的役割」の程度は固定化され、母親が「周辺的役割」を担う構造が維持される。
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© 2023 日本スポーツ社会学会
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