日本野生動物医学会誌
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原著論文
カモ類の対数化飛来羽数は野鳥の高病原性鳥インフルエンザ発生リスクの 指標になりうるか?
大谷 新太郎井上 雅夫渡邊 文乃池田 真紀
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2024 年 29 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

 高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は世界的に拡散し野生動物にも大きな被害を及ぼしている。ガンカモ類は鳥インフルエンザウイルスのレゼルボアであるが,それらの国内への飛来状況と野鳥の感染発症リスクとの関連は,十分には解明されていない。今回,2016年9月から2017年6月(2016季)に日本に飛来したカモ類の対数化羽数と野鳥のHPAI報告件数との関連を検討した。調査対象種はHPAI感染拡散に関与していると考えられる9種である:マガモ(Anas platyrhynchos),カルガモ(Anas zonorhyncha),コガモ(Anas crecca),ヒドリガモ(Mareca penelope),ハシビロガモ(Anas clypeata),オナガガモ(Anas acuta),ホシハジロ(Aythya ferina),キンクロハジロ(Aythya fuligula),スズガモ(Aythya marila)。飛来羽数は月3回,道(振興局)・府県ごとに集計し自然対数化した。2016季,調査した地域時点の総数は822,野鳥発生報告のあった地域時点数は48,平均飛来羽数は7.36 ± 1.61(平均値±標準偏差),発生報告のなかった地域時点数は774,平均飛来羽数は5.92 ± 2.06であった。野鳥のHPAI発生の起きた頻度は,ある地域時点における飛来羽数が6以上になると6未満であったときに比べて有意に高く,オッズ比は7.03,3回連続6以上になるとそれ以外の時に比べてオッズ比は7.65になった。飛来羽数が7以上の地域時点での7未満に対するオッズ比は4.90であった。さらに飛来羽数が3回連続8以上になると,それ以外の時に比べてオッズ比は7.73と高くなった。以上の結果から,調査対象カモ類の対数化飛来羽数が大きくなると野鳥におけるHPAI発生リスクが高まることが示され,カモ類の対数化飛来羽数は野鳥におけるHPAI発生リスクの簡易な指標となりうると考えられた。

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