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特集:科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題
特集:「科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題」の編集にあたって
安達 修介
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2023 年 73 巻 6 号 p. 199

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抄録

今日,科学研究分野・学術コミュニケーションでは,特に自然科学分野において,英語を用いて研究成果の発表をすることが主流となっています。しかし,英語が「共通言語」となっていることから生じている問題もあると考えられます。Science誌によると,カリフォルニア大学バークレー校の博士課程の学生が英語を母語としない49名のコロンビア人生物学者に対して調査をした結果,英語での論文執筆はスペイン語よりも12日以上多くかかること,約半数が英語の文法を理由に論文を却下されたこと,1/3が英語の発表に不安があり学会参加を諦めたことなどが明らかになったとされており1),日本でも同様の問題が生じていると推察されます。そこで,今号では科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題の現状や,問題への対応策について特集しました。

まず,天野達也氏(クイーンズランド大学)に,科学研究分野において英語が共通言語になっていると同時に,そのことが障壁を生み出している現状について紹介していただきました。環境科学分野における近年の研究を中心に,3通りの言語の障壁について紹介していただいたうえで,それぞれの問題解決のための解決策についても提示していただいています。

次に,田地野彰氏(名古屋外国語大学)に,言語問題を大学英語教育研究の視点から整理し,その解決・改善に向けた方策について論じていただきました。研究を重視する大学の一つである京都大学の全学的な英語教育の取り組みを中心として,大学英語教育に関連する研究を紹介していただいています。

続いて,米澤彰純氏(東北大学)に,人文社会科学の分野における,研究成果の国際発信の取り組みについて紹介していただきました。教育学分野での英語論文執筆を通じた国際発信を題材として,日本から人文社会科学の国際発信を推進していくための現状・課題・展望を取り上げていただいています。

さらに,柳瀬陽介氏(京都大学)に,言語問題を解決するための方策として,AIを活用して英語論文を執筆する方法について紹介していただきました。AIが不得意としている領域の作業に執筆者が最善を尽くして最終成果物の質を上げること,論文の執筆者とAIが相互補完的に作業を進めることなど,作業の際の留意点を取り上げていただいています。

最後に,今羽右左デイヴィッド甫氏・清水智樹氏(ともに京都大学)に,学術コミュニケーションの例として,効果的な研究広報について論じていただきました。広報のストーリーを立て,そのストーリーに基づいて,日本語と英語を駆使し,国内外に向けて研究成果を広報する方法について紹介していただいています。

研究のグローバル化やオープン化の進展により,共通言語としての英語の重要性はますます高まっています。英語が第一言語でない研究者にとってこの状況は障壁となりますが,本特集が,そうした状況を正しく認識したり,克服・解決したりしていくための一助となれば幸いです。

(会誌担当編集委員:安達修介(主査),尾城友視,鈴木遼香,水野澄子)

1) “Science’s English dominance hinders diversity—but the community can work toward change”. Science. https://www.science.org/content/article/science-s-english-dominance-hinders-diversity-community-can-work-toward-change (accessed 2023-05-04)

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