情報の科学と技術
Online ISSN : 2189-8278
Print ISSN : 0913-3801
ISSN-L : 0913-3801
73 巻, 6 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特集:科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題
  • 安達 修介
    2023 年 73 巻 6 号 p. 199
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

    今日,科学研究分野・学術コミュニケーションでは,特に自然科学分野において,英語を用いて研究成果の発表をすることが主流となっています。しかし,英語が「共通言語」となっていることから生じている問題もあると考えられます。Science誌によると,カリフォルニア大学バークレー校の博士課程の学生が英語を母語としない49名のコロンビア人生物学者に対して調査をした結果,英語での論文執筆はスペイン語よりも12日以上多くかかること,約半数が英語の文法を理由に論文を却下されたこと,1/3が英語の発表に不安があり学会参加を諦めたことなどが明らかになったとされており1),日本でも同様の問題が生じていると推察されます。そこで,今号では科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題の現状や,問題への対応策について特集しました。

    まず,天野達也氏(クイーンズランド大学)に,科学研究分野において英語が共通言語になっていると同時に,そのことが障壁を生み出している現状について紹介していただきました。環境科学分野における近年の研究を中心に,3通りの言語の障壁について紹介していただいたうえで,それぞれの問題解決のための解決策についても提示していただいています。

    次に,田地野彰氏(名古屋外国語大学)に,言語問題を大学英語教育研究の視点から整理し,その解決・改善に向けた方策について論じていただきました。研究を重視する大学の一つである京都大学の全学的な英語教育の取り組みを中心として,大学英語教育に関連する研究を紹介していただいています。

    続いて,米澤彰純氏(東北大学)に,人文社会科学の分野における,研究成果の国際発信の取り組みについて紹介していただきました。教育学分野での英語論文執筆を通じた国際発信を題材として,日本から人文社会科学の国際発信を推進していくための現状・課題・展望を取り上げていただいています。

    さらに,柳瀬陽介氏(京都大学)に,言語問題を解決するための方策として,AIを活用して英語論文を執筆する方法について紹介していただきました。AIが不得意としている領域の作業に執筆者が最善を尽くして最終成果物の質を上げること,論文の執筆者とAIが相互補完的に作業を進めることなど,作業の際の留意点を取り上げていただいています。

    最後に,今羽右左デイヴィッド甫氏・清水智樹氏(ともに京都大学)に,学術コミュニケーションの例として,効果的な研究広報について論じていただきました。広報のストーリーを立て,そのストーリーに基づいて,日本語と英語を駆使し,国内外に向けて研究成果を広報する方法について紹介していただいています。

    研究のグローバル化やオープン化の進展により,共通言語としての英語の重要性はますます高まっています。英語が第一言語でない研究者にとってこの状況は障壁となりますが,本特集が,そうした状況を正しく認識したり,克服・解決したりしていくための一助となれば幸いです。

    (会誌担当編集委員:安達修介(主査),尾城友視,鈴木遼香,水野澄子)

    1) “Science’s English dominance hinders diversity—but the community can work toward change”. Science. https://www.science.org/content/article/science-s-english-dominance-hinders-diversity-community-can-work-toward-change (accessed 2023-05-04)

  • 天野 達也
    2023 年 73 巻 6 号 p. 200-205
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    科学研究における共通言語としての英語は,国際的なコミュニケーションを容易にすることで,科学の発展に対して大きな便益をもたらす一方で,いくつかの大きな障壁ももたらしている。本稿では,(1)英語が第一言語でない研究者に対する言語の障壁,(2)科学的知見の応用に対する言語の障壁,(3)科学的知見の集約に対する言語の障壁,という3種類の障壁について,環境科学分野における近年の研究を中心に紹介する。またそれぞれの問題解決のために,研究者個人や学術誌,学会などが実行できる解決策についても紹介し,学術界における言語の障壁という問題について認識を高め,国内外で問題の解消に向けた動きを促進することを目的とする。

  • 田地野 彰
    2023 年 73 巻 6 号 p. 206-211
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    学術研究活動における英語の重要性は広く認められている。たとえば,学術会議での研究成果発表や学術論文の執筆などは一般に英語を用いて行うことが期待されている。こうした研究活動における英語の使用が,近年,英語を母語としない非英語圏の科学分野の研究者にとっての「英語の壁」として問題視されている。本稿では,この「英語の壁」問題を,大学英語教育研究の視点から整理し,その解決・改善に向けた方策について考察する。具体的には,研究重視型大学の一つとされる京都大学の全学的な英語教育の取り組み(「学術研究に資する英語教育」)を中心に関連研究の一部を紹介する。

  • 米澤 彰純
    2023 年 73 巻 6 号 p. 212-218
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    人文科学・社会科学は,極めて多様な対象と方法論にまたがって展開しており,各大学や学協会も学術に用いる言語について共通見解に立った組織的行動をとることが難しい。本稿では,教育学分野での英語論文執筆を通じた国際発信を題材として,日本からの人文科学・社会科学の国際発信を推進していくための現状・課題・展望を論じる。研究者養成を担う大学院や学会では若手研究者を対象とした英語論文執筆指導の体制整備が進められている。国際的学術貢献を果たすには,技術的な側面を超えた研究枠組,理論における国際的な学術コミュニティへのコミットメントと戦略的で自律的な学術活動を行っていくことが必要である。

  • 柳瀬 陽介
    2023 年 73 巻 6 号 p. 219-224
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,日頃英語で書く経験が乏しい日本語話者が,短期間で英語論文を執筆する方法について解説する。作業手順は,日本語による構想と原稿執筆→AIによる英語翻訳→AIによる文体改善→著者による最終校閲である。一貫している原則は,人間が,AIが不得意としている領域の作業に最善を尽くすことで,最終成果物の質を上げることである。作業の際の留意点は,ストーリー・文体・語法の3つの観点別に説明する。それぞれの強調点は,ストーリーでは戦略的な構想,文体では英語の発想に即した表現法,語法では日本語話者が不得意とする領域である。本稿は総じて,人間とAIが相互補完的に作業を進めることを推奨する。

  • 今羽右左 デイヴィッド 甫, 清水 智樹
    2023 年 73 巻 6 号 p. 225-229
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    研究機関が学術情報を発信する場合,研究者・科学ジャーナリスト・一般市民など,多様な受け手に合わせて,研究ストーリーの語り方と伝達手法を柔軟に選択・実践する必要がある。本稿では,その具体的なアプローチとして,プレプリントサーバーやソーシャルメディアによる情報発信,研究助成金の申請,論文のプレスリリース(国際的な科学ニュース配信サービスの活用,報道を促す文章とイラストの制作)について概説する。こうした多角的な情報発信手法を重層的に実践する,いわば「厚み」のある研究広報を実践することによって,学術情報を効果的に伝えることができるであろう。

連載:特許情報分析/解析/検索データベース 第3回
  • 田澤 綾子
    2023 年 73 巻 6 号 p. 230-233
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル フリー

    CAS SciFindernはCASが提供する科学情報検索ツールである。世界中の論文・特許,化学物質,反応,物質の規制情報や試薬カタログ情報など,科学に関係する情報を網羅的に検索でき,解析機能も充実している。本稿では,CASが独自に開発したAIベースの先行技術文献を検索する機能Prior Art Analysis,特許の共同出願,共著者,主題などが視覚的にわかるKnowledge Graph,および物質の構造類似性に基づき特許マップを作成するChemscape Analysisの3つの解析機能について紹介する。

連載:実務者のための著作権お悩み相談室 第1回
事例報告
  • 竹居 祥行
    2023 年 73 巻 6 号 p. 242-245
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/01
    ジャーナル オープンアクセス

    各官庁や団体から統計データが報告されており,それらのデータは今後の業界の需要を予測するうえで重要なデータであると考えられる。また,特許や論文は世界中で発行されて公開されており,広い範囲の技術がカバーされていることから,これらの情報が需要予測の予測モデルに適用できれば有力であると考えられる。本稿では,特許の出願件数や出願人数,特許の価値評価指数,論文の被引用情報等を用いて,需要予測モデルを作成し,光触媒とリチウムイオン電池の分野において当該モデルの適用可能性と,どの因子が需要に関連するのかを検討した。

協会記事
feedback
Top