抄録
岩手県岩泉町では,平成28年台風10号災害の際,大きな被害が発生した。特に安家地区では,甚大な物的被害が発生したにも関わらず,比較的,人的被害が少なかった可能性が示唆されている。その要因を探ために,住民に対して避難行動についてのアンケート調査を行った。その結果,第 1 に,町からの「避難情報への接触」の段階では IP 端末が特に有効であったことが 明らかになった。IP 端末が避難情報の認知で役立つメディアとして調査等で定量的に示されたことは,過去に例がない。ただし,この IP 端末も万能ではなく,維持には費用負担が大きい,という課題がある。第二に,他者からの呼びかけや直接的なリスク認知としての「河川の状況」が, 避難行動にあたえる影響は大きいことが明らかとなった。最後に,安家地区においては地理的 特性に基づいた避難が行われていた。行政によって指定される避難場所の位置ならびにそこへ のルートの安全性は避難行動に大きな影響を与える。行政は避難場所を設定する際に,逆に避 難行動をとることが危険となることを周知する必要がある。