抄録
台風がもたらした豪雨のため,1898年9 月7 日午前1 時30分ごろ八ヶ岳南麓で土石流が発生し,山梨県北巨摩郡大泉村谷戸で57人が死亡,51人が負傷した。筆者は,明治時代に編纂され,宮内庁にアーカイブされていた「暴風雨被害取調表」,ならびに法務局に保管されている土地台帳の記録を基に,被害家屋の所在を調査した。その結果,死傷者を出した家屋のほとんどが,集落を流れる農業用水路に沿って立地していたことが分かった。さらに,被災地域についてのHyper KANAKO システムを用いた土石流シミュレーションの結果と被害家屋の分布を比較した。その結果,集落中の特定の家屋群に犠牲者が集中的に発生した主要な原因の一つとして,被災地域の微地形の影響が挙げられることを見出した。