自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
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40 巻, 2 号
自然災害科学
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
巻頭言
年間特集
  • 今村 文彦
    2021 年40 巻2 号 p. 151-162
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
     東日本大震災において発生した巨大津波による被害が生じてから10年が経過する中で,その実態解明が進められ今後の津波対策が議論されている。その概要について本文で紹介したい。 まず,津波発生メカニズムについて,地震動や測地のデータだけではなく津波波形を利用し逆解析が行われ,将来の評価のために津波断層モデルの特性化が提案されている。当時,気象庁から津波警報が発表されたがいくつかの課題があり,現在ではこの解決のためにリアルタイム観測と予測技術の向上などの研究が精力的になされている。  当時の写真・動画,調査データで記録された巨大津波の挙動およびその被害は壮絶であった。津波に関連した複合的で連鎖的な被害過程や津波災害の誘因・素因の分類などを紹介し,今後の災害対策に役立てたい。特に,今回では,地形変化,津波火災,「黒い津波」など新しい災害像もあり,その実態を報告する。今後は,このような津波関連災害の予測や評価が重要であり,東日本大震災において得られたデータを活用して,従来方法の課題を克服するような研究が行われている。大震災の直後に,津波対策の2 つのレベルや「津波防災まちづくり法」が国として も提案され,災害を繰り返さない取組が精力的に行われている。その際に,事前復興計画にも反映するためにも安全レベルの事前の合意形成が重要となっている。
  • 高橋 智幸
    2021 年40 巻2 号 p. 163-174
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    東日本大震災での津波被害を整理し,それらを踏まえて南海トラフの地震津波への備えについて考察した。東日本大震災では想定津波や津波警報の過小評価,被災状況把握の遅れ,津波に付随する現象(砂移動や地形変化,漂流物,災害がれき,避難行動など)が被害を拡大する要因となった。東日本大震災以降は,最大クラスの津波想定,津波の数値解析及び観測体制などの進展により,津波警報の過小評価の防止や迅速な被災状況の把握などが図られている。しかし,津波警報では津波地震や津波波源の不均質性,解除に関しては課題が残っている。また,現場 ではまだ活用されていない技術もあり,今後も防災力向上に努める必要がある。
報告
  • 佐藤 健, 桜井 愛子, 小田 隆史, 林田 由那, 村山 良之, 矢守 克也
    2021 年40 巻2 号 p. 175-190
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール:CS)を導入した学校として, 家庭,地域,関係機関等との連携・協働による学校防災の取組を継続的に推進してきている横 浜市立北綱島小学校の実績と活動モデルを通して,CS の枠組みを活かして学校防災を推進することの有効性と持続可能性を示すことである。北綱島小学校の約10年間にわたる中期学校経営方針の変遷をはじめとする関係資料の収集,北綱島小学校における地域防災拠点訓練の現地調査に基づいて考察を行った。  その結果,学校防災を推進するにあたり,我が国の既存制度であるCS は有効かつ持続可能な枠組みであることや,学校と家庭,地域とが相互の強みを生かし合った質の高い協働に基づいた北綱島小学校の学校防災の取組は,他の学校や地域が学ぶべきロールモデルであること,学校の経営方針や重点取組目標に学校・家庭・地域が連携した防災活動を掲げ,CS の枠組みを活用した実践の蓄積は,持続可能な防災まちづくりと防災人材育成の副産物をもたらすことなどを示した。
  • 土屋 十圀
    2021 年40 巻2 号 p. 191-212
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    2019年10月12日,台風19号は関東・甲信地方から東北地方にかけて大河川の流域に総降雨量300mm ~500mm 豪雨を降らした。そのため東日本の各地で堤防決壊,越水氾濫が発生し,人命・財産をはじめ生活や産業など多くの分野に甚大な被害をもたらした。 本報ではこのうち千曲川で大きな破壊を受けた河川構造物の堤防,護岸の損壊状況について調査報告をしている。特に,越流決壊した桜づつみ(側帯)堤防は近い将来に向けて構造上の検証がなされる必要がある。一方,高水敷の堆積土砂及び果樹木調査では洪水が膨大な土砂堆積量をもたらし,果樹木などは樹木管理の基準を超過していることも分かった。これらの結果は,今後の河川管理においても重要な課題と考えられる。また,地形,地質の視点である河川のセグメント区分及び河川管理の視点から現地調査と関係機関の資料から水害の要因を水理学的にも考察し,今後の課題を明らかにすることを目標とした。
  • 中井 仁
    2021 年40 巻2 号 p. 213-221
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    台風がもたらした豪雨のため,1898年9 月7 日午前1 時30分ごろ八ヶ岳南麓で土石流が発生し,山梨県北巨摩郡大泉村谷戸で57人が死亡,51人が負傷した。筆者は,明治時代に編纂され,宮内庁にアーカイブされていた「暴風雨被害取調表」,ならびに法務局に保管されている土地台帳の記録を基に,被害家屋の所在を調査した。その結果,死傷者を出した家屋のほとんどが,集落を流れる農業用水路に沿って立地していたことが分かった。さらに,被災地域についてのHyper KANAKO システムを用いた土石流シミュレーションの結果と被害家屋の分布を比較した。その結果,集落中の特定の家屋群に犠牲者が集中的に発生した主要な原因の一つとして,被災地域の微地形の影響が挙げられることを見出した。
  • 田窪 亮介, 米山 望, 伊藤 理彩, 東海 明宏
    2021 年40 巻2 号 p. 223-242
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    南海トラフ地震発生時には,淀川に近接する事業所から化学物質が漏出し,淀川に流出する可能性がある。その化学物質が津波の河川遡上に伴って拡散し,浄水場に流入することによる取水障害が問題として挙げられる。本研究では,三次元密度流解析手法を用いて巨大津波発生時の淀川における化学物質の挙動解析を実施し,取水への影響を検討した。解析の結果,取水に影響を及ぼす可能性があることを定量的に示した。さらに,複数条件で化学物質の挙動解析を行い,様々な要因によって挙動が変化することを明確にすることで,同解析手法の有用性を示した。
  • 浦上 佳太, 米山 望
    2021 年40 巻2 号 p. 243-259
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー
    日本では,東日本大震災で想定を超える高さの津波に被災した経験から,地すべりを含めたあらゆる発生要因の津波への対策が求められている。本研究では,米山らの三次元流体剛体連成解析手法を地すべり津波の解析に適用し,既往水理模型実験の再現計算を通してその適用性を検証した。検証の結果,陸上地すべりのケースはいずれも,時刻歴波形及び発生した津波の最大・最小水位が概ね一致しており,本解析手法の陸上地すべり津波に対する適用性を確認することができた。海底地すべり津波のケースでは,時刻歴波形の第一波,第二波は,いずれの計測点でも概ね一致した一方で,時間経過につれて波形のずれが生じること,時刻歴波形が短周期で振動する現象を確認した。
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