2018 年 67 巻 2 号 p. 196-205
目的:アカデミア創薬の世界的動向を把握するべく,米欧のアカデミアと企業との間で行われる創薬シーズや創薬技術の取引状況を俯瞰的・定量的に分析する.
方法:世界の医薬品市場において最大シェアを占める米国と欧州主要 5 ヶ国(英国,ドイツ,フランス,イタリア,スペイン)を対象に,Clarivate Analytics社が提供するCortellis Deals Intelligenceを用いて,米欧の大学等(大学,医療機関,公的研究機関)及び大学等発ベンチャー企業(以下,アカデミアと記す)から導出された,特許に裏付けられた創薬シーズや創薬技術に関わる取引(以下Deal,ディールと記す)の傾向を定量的に分析した.ディールは,2010年~2015年に締結されたものを対象にした.
結果:①米欧のアカデミアから導出された創薬シーズあるいは創薬技術に関するディールは703件であり,その95.6%は民間企業が買い手であった(703件中672件).②ディールの種類としては,「特許権使用許諾」が703件中669件で全体の95.2%を占めた.この669件について,以下の特徴が明らかになった.③疾患領域では「がん」領域の位置づけが高い一方で,免疫系疾患・炎症性疾患・血液系疾患,内分泌代謝疾患,末梢・中枢神経疾患での増加が注目された.④創薬技術としては,「低分子」,「診断」,「抗体医薬」が優位にあり,これら 3 つの技術でディール件数全体の約45%を占めた.⑤ディールの契約締結時期は,基礎研究と前臨床段階が中心であり,近年は基礎研究段階で契約を締結する傾向が強まっていた.⑥ライセンスオプション契約が15%程度用いられていた.
結論:公的機関がアカデミア創薬に焦点をあてて,疾患領域や創薬シーズ・創薬技術等に関するディールについて俯瞰的な分析をしたのは本例が初めてであり,分析手法上の課題はあるものの,米欧におけるアカデミア創薬の全体傾向が明らかになったと考えられる.