2020 年 69 巻 5 号 p. 418-424
気候変動は,世界中の人々の健康にとって重大な脅威であり,公衆衛生上重要な課題の 1 つとして位置づけられている.気候変動による気温の変化や大気汚染の悪化により異常気象が発生し,新興・再興感染症の発生に係る地理的分布,季節性,流行規模への影響が国際的に懸念されている.
気候変動は,多くの感染症の分布や発生に影響を与えている.気候変動の影響は地域によって異なり,西太平洋・アジア地域はその影響を受けやすいことが指摘されている.一方,気候変動による感染症の発生リスクは一律ではなく,様々な要因によって異なる可能性がある.
気候変動による感染症への脆弱性については,地域の社会環境・経済要因や個人の社会経済・行動要因といった効果修飾因子が重要な役割を果たしている.気候変動適応策・緩和策の策定,感染症の監視体制の強化,公共施設でのエアコンの設置,医療保健サービスの充実,排水対策,防潮堤の建設,森林再生といった公衆衛生対策や公共施設等の設備整備の推進によって,気候変動による脆弱性が減少するとの報告がある.公衆衛生対策の効果については,疾病や地域によって異なる可能性があることに留意する必要がある.
今後,人々の生活習慣や価値観が世代間でますます多様化し,高齢化とともに健康格差の拡大も懸念されている.気候変動による感染症の疾病負荷を軽減させるためには,気候変動適応策・緩和策の策定や公衆衛生対策の実施が最も有効である.今後も,より質の高い科学的根拠を積み重ねていくことを通じて,それぞれの地域や住民の特徴を踏まえた気候変動対策や公衆衛生対策の推進に貢献していくことが重要であることを示唆している.