2024 年 31 巻 3 号 p. 131-140
脳は多数の神経細胞が接続し形成された複雑ネットワークである.そのネットワーク構造はスモールワールド性やモジュール性といった特徴を有することが,近年のグラフ理論的な解析により明らかにされてきた.神経細胞は,この特徴的なネットワーク構造上で活動を伝搬し,ダイナミクスを生成するが,これらのネットワーク特性がどのように神経ダイナミクスを通じて実際の情報処理に寄与するのだろうか? リザバーコンピューティングは,リカレントニューラルネットワークを基盤として発展した機械学習モデルであり,さまざまな構造を有するネットワークのダイナミクスを情報処理に応用する技術としても使用できる.本稿では,リザバーコンピューティングに関するこれまでの理論研究を概観したうえで,著者らが生物の神経細胞を用いて行った,ネットワーク構造とパターン分類性能の関係を調べた研究を解説する.これらの研究を通じて,神経回路網の配線構造が,脳内での情報処理にどのように寄与しているのか,特に,神経細胞の生物物理的特性との協調について議論する.