抄録
イトメ (Tylorhynchus heterochaetus) の酸性糖脂質には, 酸性基グループとしてイノシトールリン酸を成分にするものと, イノシトールの水酸基がO-メチル基で置換されたメチルイノシトールリン酸を成分にするものとの2種類のイノシトール脂質シリーズが存在することを見いだした。
TLC分析によってイトメの全酸性糖脂質は, リン検出試薬にのみ陽性を示すものと, さらに糖検出試薬にも陽性を示すものとの数種類の成分から成ることがわかった。今回は, それらの中から3種類のもの (AGL01, AGL1およびAGL21) をイオン交換セファデックスおよびケイ酸カラムクロマトグラフィーによって単離・精製した。それらの構造を, 糖粗成分析, フッ化水素酸分解, 三臭化ホウ素脱メチル化, メチル化分析およびFAB-MS分析によって解析し, AGL01 : InsMe (1→) -P-Cer; AGL1 : Fuc-InsMe (1→) -P-Cer; AGL21 : Ins (1→) -P-Cerであると推定した。これらのイノシトール脂質のセラミド部分は主として, AGL21がノルマル酸 (16 : 0, 18 : 0) とジヒドロキシ塩基 (d18 : 1, d18 : 0) を, AGL01およびAGL1がヒドロキシ酸 (h16 : 0, h18 : 0) とトリヒドロキシ塩基 (t18 : 0) を成分としていた。
さらに, TLC上での挙動および構成成分の分析から, 少なくとも, あと4種類Man-InsMe-P-Cer (AGL22), Fuc-Ins-P-Cer (AGL3), Man-Ins-P-Cer (AGL4), Man (Fuc-) Ins-P-Cer (AGL5) と考えられるイノシトール脂質の存在することが示唆された。