抄録
単分子膜中および二分子膜中におけるL-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン (DPPC) と二重結合の数の異なるいくつかのステロイドとの相互作用を表面圧, 膜透過性および微視的粘性を測定することにより検討した。本研究で用いたステロイドは7-デヒドロコレステロール (7-DHC), コレステロール (Chol), β-コレスタノール (β-Chol) であり, その他にステロイドB-環が開裂した構造を持つビタミンD3 (VD3) も使用した。
DPPC-ステロイド混合単分子膜中におけるステロイドの極限分子占有面積は, ステロイドリング内に二重結合が増えるにつれて増加し, その順序はβ-Chol<Chol<7-DHCであった。次に, リポソーム形成能については, ステロイドのモル分率0.5以下, VD3のモル分率0.3以下では加えたDPPCは全てリポソームを形成した。ステロイドを含んだリポソームの膜透過性はステロイド環中の二重結合の数が増えるにつれて減少し, またステロイドの極限分子占有面積が増えるにつれて減少した。一方, VD3を含んだリポソームの場合には, VD3の極限分子占有面積はステロイドよりも大きいにもかかわらず, 膜透過性はステロイドを含んだリポソームの膜透過性よりも高かった。すなわち, Demelらは単分子膜中で測定されるステロールの分子占有面積とリポソームの膜透過性に及ぼすステロールの影響との間の相関性を示しているのではあるが, リポソーム二分子膜の透過性に及ぼすステロイドあるいはVD3の影響は二重結合の数や極限分子占有面積では充分には説明できないことが示された。しかしながら本研究において, ステロイドあるいはVD3を含んだリポソーム二分子膜の透過性は二分子膜中心付近の微視的粘性が増加するにつれて直線的に減少することが認められた。すなわちリポソーム二分子膜の透過性は, 蛍光プローブ12 ASを使った蛍光偏向の測定により求められる二分子膜中心付近の微視的粘性とよい関連性があるものと考えられた。