2019 年 12 巻 1 号 p. 41-50
労働災害による脊髄損傷(以下,せき損災害)の発生率は高くない.しかし,患者の早期の現場復帰率は低く,患者本人や家族,関係者にとって重い負担となるため看過できない問題である.本調査は,厚生労働省が保有する労働災害データを対象に,せき損災害の発生傾向を分析しその特徴をとらえることにより,せき損 災害防止に資する知見を得ることを目的とした.平成24~26年に発生した墜落・転落,転倒,はさまれ・巻き込まれによるせき損災害387件を対象とした.昭和50年代に実施された先行研究と比較し,せき損災害の発生 傾向の時間的変化を検討した結果,建設業が多いことは共通したが,近年,第三次産業や転倒によるせき損災 害の割合が大幅に増加していた.また,平成24~26年に発生した墜落・転落,転倒,はさまれ・巻き込まれの全労働災害,1/4抽出災害,平均雇用者数と比較し,せき損災害に特徴的な発生傾向を調べた結果,建設業, 墜落・転落災害,男性,高年齢労働者は有意にせき損災害の発生する割合が高かった.一方,せき損災害に顕 著な起因物はなかった.さらに,墜落・転落によるせき損災害は3m未満からの墜落・転落により6割近くが発生しており,1m以上の高さからの墜落・転落であれば重症化する可能性が認められた.本調査の結果により, せき損災害に遭いやすい業種や労働者のプロフィール,せき損災害の重篤度が明らかとなり,労働災害防止のための基礎データとして活用されることが期待される.