抄録
本研究は製造業が衰退したと一般的に考えられている大都市において、製造業維持方策を実現する方法を明らかにすることである。世界的な大都市であるニューヨーク市を研究対象として、1990年代以降に盛んになった製造業維持の考え方と主張を明らかにしながら、その思想を具体的に実現している製造業支援型開発業者に着目して、各々の事業者の特徴、分類、その展開、事業実現手法、歴史的な工業建築を含むストック(既存建築)の活用を含む実態を明らかにして、本事業の維持方策手法としての現時点での到達点と課題を明らかにする。対象とする開発事業者は主に非営利が中心ではあるが、営利で行っている事業者も存在し、公共と民間がその担い手となり民間からの資金調達や補助金を活用しながら、市内の約1/7の製造業雇用の維持に貢献している。そこには共通の開発・運営手法が存在し、事業者間でその手法が共有されている。歴史的資源の活用は意図的ではないが、事業活動資金の制約と空間の合理性から行われている。一方で、土地利用計画レベルで、工業地帯への住宅・商業開発の浸食を防ぐ手立ては行われないため、彼らの活動の拡大が難しい状況が確認された。