日本公衆衛生雑誌
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精神保健福祉法改正施行直前の市区保健所における精神保健福祉活動の実施状況
大井 照佐々木 昭子竹島 正南 龍一高岡 道雄石下 恭子角田 正史上野 文彌
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2005 年 52 巻 1 号 p. 46-54

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抄録
目的 平成11年精神保健福祉法の改正により,保健所の地域精神保健における役割は変化している。この研究ではすでに多くの精神保健福祉業務委譲がなされている市区保健所における法施行直前の実態調査を行い,今後市区保健所での精神保健福祉業務を一層推進するためと,市町村への円滑な業務委譲を支援する上での参考資料を得る事を目的とした。
方法 平成13年10月に指定都市・中核市・政令市・東京都特別区の81か所の保健所に対し精神保健福祉に関する質問紙による調査を郵送法にて実施した。
成績 全体で86.4%の回収率を得た。市区保健所が保健と福祉の統合部門に属している割合は全体で57.1%だった。中核市は統合部門に属している割合が78.6%と高く統合が進んでいる一方で,指定都市は35.3%にとどまった。社会復帰施設と支援等については設置主体となっている保健所は 1 割に満たず,また補助金交付としては小規模作業所への交付が最多であった。特別区では生活訓練施設(援護寮)への支援が13.3%と低く,社会復帰施設が存在するのも60%と少なかった。居宅生活支援事業は全体の70.0%に実施され,その内社会適応訓練事業は「実施なし」が特別区で53.3%と他の保健所類型に比べ高い。社会復帰施設入所は市区保健所全体で「利用なし」が28.6%,相談・助言「なし」が37.1%であった。ケアマネージャー養成講座研修の受講は,指定都市,中核市,政令市で「受講者あり」の割合が高く,特別区で低かった。社会適応訓練事業を実施している保健所でケアマネージャー養成講座研修「受講者あり」が85.5%と,事業を実施していない保健所の46.2%に比べ有意に高かった。障害者手帳や医療費申請受理時に相談面接をしている割合は特別区が希望者のみとしたため40.0%と低かったが,他の類型では70%以上が実施していた。申請窓口は統合部門がほとんどであった。窓口での問題は中核市の半数が「あり」であったが,他では少なかった。法34条の移送制度について制度の実施は指定都市,特別区で70%を超え,中核市と政令市では低かった。移送の相談は全体で28.6%あり,移送制度があるところでは実際の移送が34.2%で実施されていた。精神保健福祉協議会は指定都市,特別区でほぼ設置されていたが,中核市は21.4%にとどまり,政令市では設置ありが 1 市のみで,検討もしていない保健所が多かった。障害者計画は多くの市区で策定されており,精神保健福祉が盛りこまれていた。法改正による変化では福祉施策面で前進と多くの保健所が回答した。
結論 精神保健業務委譲は,市区保健所においてはすでに実施されているところが多いが,サービスが十分でないという懸念があり,法改正を機に充実が図れるかが課題であった。今回の調査では市区保健所間の格差がみられ夫々の市区保健所が都市規模に起因している等の課題を抱えていることが明らかになった。また新たに加わった法34条の移送制度について,実施している割合が指定都市と特別区は70%を超えたが,中核市と政令市は低い割合を示し,制度が整備されていないことが示唆された。
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© 2005 日本公衆衛生学会
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