目的 近年,動脈硬化と炎症反応との関連が指摘され,炎症マーカーである白血球数や C 反応性蛋白(以下 CRP)などの高値が虚血性心疾患発症を予測する新しい危険因子として注目されている。また,一方で多くのコホート研究で ST-T 変化は虚血性心疾患の予測因子であることが指摘されている。本研究は地域住民の健康診査結果をもとに,べースラインの白血球数と新規の心電図 ST-T 異常所見の出現との関連を明らかにすることを目的として実施した追跡研究である。
方法 大阪府 A 市において昭和60年度から63年度の間に基本健康診査を初めて受診した者において,心電図検査にて正常所見であった者のうち非喫煙,かつ正常血圧であった者2,485人(男性516人,女性1,969人)を対象とした。このうち,ベースラインからの脱落者516人を除いた1,969人(男性279人,女性1,690人)について,性別・白血球数区分別に 7 分割し,最小値群と最大値群を除いた,残り 5 群,1,414人(男性201人,女性1,213人)を分析対象者とした。
結果 ベースラインデータでは,男女ともに白血球数の平均値,白血球数高値者の割合は,ST-T 異常出現群では ST-T 正常継続群よりも高い傾向にあり,男性では有意差を認めた。
ST-T 異常所見の出現に関する白血球数高値群の低値群に対する相対危険度は,男性総数では年齢・飲酒習慣調整後では4.72,多変量調整後では7.16で,女性総数ではそれぞれ1.47,1.50であった。
男女各々について白血球数区分別にみると ST-T 異常所見の出現率(人年法による)は,男性では,白血球数が高い群ほど ST-T 異常所見の出現率が増加する傾向を認め,最高値群では33.3対1,000人年であった。女性では ST-T 異常所見の出現率は白血球数区分別の各群の間に,顕著な差はなく,男性にみられた傾向は認められなかった。白血球数区分別各群の最低値群に対する ST-T 異常所見の出現の相対危険度は,男性では白血球数が高い群ほど増加し,高値群,最高値群では年齢・飲酒習慣調整後6.57,8.85,多変量調整後では10.16,10.74で,ともに最低値群に対して有意差が認められた。白血球数区分別にみた相対危険度の検定についても,年齢・飲酒調整後,多変量調整後ともに,有意であった。女性では,最高値群の相対危険度はそれぞれ1.26,1.27で最低値群に対して有意差はなかった。また傾向性についても,ともに有意でなかった。
結論 健康診査受診者の追跡調査の結果,ベースライン調査時の白血球数と心電図 ST-T 異常所見の新たな出現との間に有意な関連が認められ,その関連は男性において顕著であった。
抄録全体を表示