日本公衆衛生雑誌
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地域在宅高齢者における記憶愁訴の実態把握 要介護予防のための包括的健診(「お達者健診」)についての研究(3)
岩佐 一鈴木 隆雄吉田 祐子吉田 英世金 憲経古田 丈人杉浦 美穂
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2005 年 52 巻 2 号 p. 176-185

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抄録

目的 高齢者が自らの記憶力低下について自覚することを記憶愁訴(memory complaint)と呼ぶ。本研究は,都市部に居住する高齢者を対象として実施した断面調査の結果を用いて,記憶愁訴の出現頻度,高齢者が抱える記憶愁訴の主症状の分類,記憶愁訴の関連要因の探索について検討することを目的とした。
方法 都市部に在宅する70歳から84歳の高齢者838人(男性453人,女性385人,平均年齢76.2歳)のデータを用いて分析を行った。記憶愁訴は,現在の日常生活において記憶に関する事柄で困った経験の頻度を評定させた。さらに,記憶愁訴の具体的内容について自由回答を求めた。その他,うつ傾向,認知機能低下(MMSE 総得点24点未満で定義した),聴覚・視覚機能障害,高次生活機能,健康度自己評価,年齢,性別,教育年数等を測定・聴取した。
結果 記憶愁訴の出現頻度は,「ときどきある」もしくは「しょっちゅうある」と回答した者が,男性では,26.8%,女性では,31.6%であった。
 記憶愁訴の主症状について分類したところ,「人名を忘れる」が全体の約 1/4,「物品をどこに置いたか(しまったか)忘れる」が約 1/5,「物品をどこかに置き忘れてくる」が約15%を占めた。また,展望的記憶(prospective memory)に関する愁訴が全体の約 1/4 を占めた。
 記憶愁訴に関連する要因の探索を多重ロジスティック回帰分析により男女別に行ったところ,男性では,健康度自己評価,認知機能低下において,女性では,聴覚機能障害,健康度自己評価において,それぞれ他の要因とは独立して,記憶愁訴と有意な関連が認められた。
考察 地域在宅高齢者における記憶愁訴は,聴覚機能障害,健康度自己評価等,認知機能以外の要因からも影響を受け生起することが示唆された。また,記憶愁訴と認知機能低下の関連は,男性においてのみ認められたことから,記憶愁訴は認知機能低下の有用かつ簡便な指標として男性において機能する可能性が示唆された。この点について明らかにするためには,今後縦断的調査を実施し,予測的妥当性(predictive validity)について検討を行う必要がある。

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© 2005 日本公衆衛生学会
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