目的 近年,日本では乳がん検診の方法の見直しが行われ,マンモグラフィによる検診の導入が進んできている。本研究では,1987年に老人保健法に組み入れられて以来山形県にて行われてきた視触診による乳がん検診を,地域がん登録を用いて精度と早期発見の効果の点で評価し,総括することを目的とした。
方法 (1)精度:対象は1997年 4 月から1998年12月までに山形県内 Y 検診施設実施の乳がん検診受診者,延べ51,700人で,山形県がん登録と照合して乳がん有病者を把握し,検診の感度,特異度,陽性反応適中度を求めた。偽陰性の定義は,検診で異常なしと判定された症例のうち,検診受診日から 1 年以内に乳がんと診断されたものとした。陽性反応的中度は要精密検査例を分母として求めた。
(2)生存率:1989年から1998年までの10年間に,山形県がん登録に乳がんとして登録された30歳以上の女性2,323人を対象とし,発見契機別(検診発見群と非検診発見群)の 2 群に分けて診断日からの予後の比較を行った。Kaplan-Meier 法を用いて生存率を推定し,2 群の生存時間分布の比較を log-rank 検定で行い,5 年目と9.8年目の生存率の点推定値の比較を z 検定で行った。また,閉経前後の年齢(49歳以下と50歳以上)で層化した検討も行った。
結果 (1)精度:感度46.6%,特異度97.3%,陽性反応適中度1.9%であった。
(2)生存率:log-rank 検定,生存率の点推定値(5 年,9.8年)の比較においては,検診発見群の方が非検診発見群よりも有意に高かった(
P<0.001)。49歳以下と50歳以上で層化すると,生存率はどちらの年齢階級でも検診発見群の方が有意に高かったが,49歳以下では 2 群の差は,経年的に小さくなっていった。
結論 山形県において行われてきた視触診による乳がん検診は,検診を行うための条件のうち,早期発見による早期治療の効果が期待できるという必要条件は満たしていた。しかし,検査の精度の高さという条件は,日本の現行の他臓器のがん検診と比較した場合,十分であるとは言い難かった。
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