日本公衆衛生雑誌
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原著
全国高齢者における健康状態別余命の推計,とくに咀嚼能力との関連について
那須 郁夫斎藤 安彦
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2006 年 53 巻 6 号 p. 411-423

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抄録
目的 日本全国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模パネル聞き取り調査(「健康と生活に関する調査」日本大学総合学術情報センター研究プロジェクト)を,1999年から 2 年ごとに 3 回実施した。この縦断調査の個票データを用いて,高齢者の咀嚼能力別にみた健康状態別余命を男女に分けて推計した。
方法 本研究は,第 1 回から第 3 回調査に至る間における「健康」—「不健康」—「死亡」の状態間移動確率をもとに,多相生命表の手法による健康状態別余命の推計を行った点に特徴がある。ここで「不健康」な状態とは,質問した ADL 関連 7 項目と IADL 関連 7 項目のうち 1 項目以上に「非常に難しい」または「できない」と回答した場合とした。
都合 3 回の回答者と,この間の死亡者の合計4,323人の資料を計算に用いた。第 1 回調査時点(ベースライン)の咀嚼可能食品群による咀嚼能力に従い,男女別に,歯応えのある食品咀嚼可能群(A 群)と,普通または軟らかい食品咀嚼可能群(B 群)の 2 群に分けた。
結果 65歳における平均余命は,A 群で19.3/23.2(男/女以下同じ)年,B 群で16.7/21.1年,同歳の健康余命は,A 群16.8/18.6年,B 群13.6/16.3年,不健康余命は,それぞれ2.4/4.6年,3.1/4.8年であり,AB 群間で統計学的に有意差があったのは,健康余命のみであった。
 ベースラインの健康状態が「健康」の場合,A 群では65歳時の平均余命は19.5/23.2年,健康余命は17.1/18.7年,不健康余命は2.4/4.5年,B 群ではそれぞれ17.0/21.1年,14.1/16.4年,2.9/4.7年であった。一方ベースライン時に「不健康」の場合,A 群の65歳平均余命10.8/22.1年,健康余命6.2/15.4年,不健康余命4.6/6.7年,B 群ではそれぞれ10.0/19.5年,4.0/12.1年,5.9/7.3年であった。ベースラインが「健康」の健康余命においては,AB 群間で統計学的に有意差があった。
結論 以上,高齢者において十分な咀嚼能力を維持・回復しておくことは,平均余命の保持もさることながら,むしろ健康余命の延長に強く関連することが示唆された。
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© 2006 日本公衆衛生学会
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