抄録
目的 本研究目的は,在宅高齢者における身体活動ならびに知的活動の増加による改善効果を明らかにし,認知機能の向上との関連を明確にすることである。このことによって,認知症予防教室の持つべき要素を検討する基礎資料としたい。
方法 東京都杉並区では,2007年度同区の高齢者を対象に,「歩く!好奇心教室」を開催した。本健康教室では,ウォーキングを通じた身体活動の増加と,携帯電話の機能を覚えて使いこなすことによる知的活動の賦活などを行った。本教室は区内 4 地域で開催され,合計で61人の在宅高齢者が 7 週間の教室に参加した。本研究では介入期間中の 1 日平均歩数の変化量を身体活動の指標とし,携帯電話のカメラ機能による写真の撮影枚数と,インターネットの地図上に写真とコメントを表示できる情報共有システム(略称“Dress”)に投稿した枚数のそれぞれを知的活動の指標とした。分析対象者は調査が完了した37人で,身体活動ならびに知的活動の増加を多寡別に多かった群と少なかった群に分けた上で,各測定項目の変化量との関連性を Mann-Whitney の U 検定を用いて比較した。その後,これらの間に分析に用いた交絡要因の影響とは独立した関連性があるのかどうかを,基本的な属性を調整した重回帰分析で検討した。
結果 本教室における身体活動の増加が多かった群は少なかった群に比べ,通常歩行速度,最大歩行速度の変化量が大きく,これらの間には独立した関連性がみられた。身体活動の増加は身体機能の変化との間に独立した関連性があることが示唆されたが,認知機能の変化との間には関連がみられなかった。知的活動の指標とした携帯カメラ撮影枚数が多かった群は少なかった群に比べ,体重,BMI, TMT 課題 B 所要時間,コーピング尺度(問題焦点型得点)の変化量が大きく,体重,BMI, TMT 課題 B 所要時間の変化量との間には独立した関連性がみられた。また,Dress 投稿枚数が少なかった群は多かった群に比べ,コーピング尺度(回避型得点)の変化量が大きく,この間には独立した関連性がみられた。知的活動の増加は認知機能ならびに心理的機能の変化に寄与することが示唆された。
結論 地域在宅高齢者の認知機能の改善を目的とした健康教室においては,身体活動の増加のみでなく,知的活動の賦活にも力点を置いた内容とする必要があると考えられる。