2011 年 58 巻 5 号 p. 331-339
目的 本調査は,東京の一地域における路上生活者の精神疾患患者割合に関する日本で初めての実態調査である。主要な目的は,質問票を用いたスクリーニングと精神科医による診断によって,路上生活者の精神疾患有病率を明らかにすることである。
方法 調査期間は2008年12月30日から2009年 1 月 4 日とし,調査対象者は同期間に JR 池袋駅半径 1 km 圏内で路上生活の状態にあった者とした。調査区域は,豊島区内の路上生活者数の概ね全数を把握できる地域として選定した。路上生活者の定義は,厚生労働省の実態調査で定められているホームレスの定義と同義とした。調査依頼状を受け取った路上生活者は115人で,協力を得た80人を研究対象とした。面接調査には Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)による質問紙と,別に作成した対象者の生活状況について尋ねる質問紙を用いた。最終的に精神科医が Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision(DSM–IV–TR)の診断基準に則って精神疾患の診断をした。
結果 平均年齢は50.5(標準偏差[SD];12.3)歳,性別は男75人(93.8%),女 5 人(6.3%)であった。精神疾患ありの診断は50人(62.5%)で,内訳は33人(41.3%)がうつ病,12人(15%)がアルコール依存症,12人(15%)が幻覚や妄想などの精神病性障害であった。MINI の分類にある自殺危険度の割合では,自殺の危険ありが44人(55.7%)で,過去の自殺未遂ありは25人(31.6%)であった。
結論 本研究は,わが国のホームレス状態の者の精神疾患有病率を十分代表するとは言えないが,路上生活者に精神疾患を有する者が62.5%存在し,医療的支援が急務の課題であることを明らかにした。