日本公衆衛生雑誌
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58 巻, 5 号
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原著
  • 森川 すいめい, 上原 里程, 奥田 浩二, 清水 裕子, 中村 好一
    2011 年 58 巻 5 号 p. 331-339
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 本調査は,東京の一地域における路上生活者の精神疾患患者割合に関する日本で初めての実態調査である。主要な目的は,質問票を用いたスクリーニングと精神科医による診断によって,路上生活者の精神疾患有病率を明らかにすることである。
    方法 調査期間は2008年12月30日から2009年 1 月 4 日とし,調査対象者は同期間に JR 池袋駅半径 1 km 圏内で路上生活の状態にあった者とした。調査区域は,豊島区内の路上生活者数の概ね全数を把握できる地域として選定した。路上生活者の定義は,厚生労働省の実態調査で定められているホームレスの定義と同義とした。調査依頼状を受け取った路上生活者は115人で,協力を得た80人を研究対象とした。面接調査には Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)による質問紙と,別に作成した対象者の生活状況について尋ねる質問紙を用いた。最終的に精神科医が Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision(DSM–IV–TR)の診断基準に則って精神疾患の診断をした。
    結果 平均年齢は50.5(標準偏差[SD];12.3)歳,性別は男75人(93.8%),女 5 人(6.3%)であった。精神疾患ありの診断は50人(62.5%)で,内訳は33人(41.3%)がうつ病,12人(15%)がアルコール依存症,12人(15%)が幻覚や妄想などの精神病性障害であった。MINI の分類にある自殺危険度の割合では,自殺の危険ありが44人(55.7%)で,過去の自殺未遂ありは25人(31.6%)であった。
    結論 本研究は,わが国のホームレス状態の者の精神疾患有病率を十分代表するとは言えないが,路上生活者に精神疾患を有する者が62.5%存在し,医療的支援が急務の課題であることを明らかにした。
  • 久保 秀一, 井上 孝夫, 山崎 彰美, 羽田 明
    2011 年 58 巻 5 号 p. 340-349
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,子どもを持つ両親の喫煙における社会経済的要因の関与の有無を明らかにすることである。
    方法 千葉県西部の 3 市に住む小学校 4 年生を持つ保護者4,179人全員に対し,少子化対策を目的とした無記名自記式の質問紙調査を行った。本研究では母親がいると回答し,子ども数,喫煙,結婚に関する回答があった3,522人(84.2%)を対象とした。
    結果 母親の喫煙率は21.2%であった。母親の喫煙と関連する要因としては,“配偶者がいない”,“配偶者の喫煙”,“母親が35歳未満”,“育児休暇を利用していない”,“母親の両親が健在でない”,“千葉県出身,“保育園の利用”,“子育てサークルを利用しない”,“麻しんワクチンの未接種•接種不明”,“生活に対して不満足なこと”であった。
     父親の喫煙率は51.4%であった。父親の喫煙と関連する要因としては,“配偶者の喫煙”,“父親が35歳未満”,“父親の職業が労務技能•販売サービス”,“父親の勤務先が民間企業1,000人未満”であった。
    結論 両親の喫煙行動に社会経済的要因の関与が認められた。とくに配偶者の喫煙の有無と母親の配偶者の有無は強い関連性が示された。
  • 村山 洋史, 菅原 育子, 吉江 悟, 涌井 智子, 荒見 玲子
    2011 年 58 巻 5 号 p. 350-360
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 地域を基盤としたヘルスプロモーション活動や介護予防活動を効果的,効率的に実施する上で,人々が地域社会に対して持つ態度や意識,すなわちコミュニティ意識を把握することは重要である。本研究では,このコミュニティ意識の測定を目指した代表的尺度である地域社会への態度尺度の一般住民における信頼性,妥当性を検討すること,および健康指標との関連を検討することを目的とした。
    方法 2009年 2 月に郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した。千葉県柏市にある地区社会福祉協議会エリア23か所から,地域特性が多様となるように 7 か所選定し,そこに居住する20歳以上の地域住民93,110人から4,123人を系統抽出した。調査項目は,地域社会への態度尺度(作成されたのが1978年のため,一部項目のワーディングを変更),基本属性,および主観的健康感等を含む健康指標であった。尺度の検証には,確証的因子分析,内的整合性の検討,Item–Total 相関分析によって行い,健康指標との関連は各指標を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。
    結果 配布数4,123票のうち,1,735票が回収され,そのすべてを有効回答とした(回収率42.1%)。確証的因子分析の結果,原本通りの 2 因子性が支持された。また,内的整合性の検討,Item–Total 相関分析でも良好な結果であった。健康指標との関連では,地域社会への態度尺度得点が高いほど,主観的健康観が良好であり,将来への不安がなく,孤独感が低いという結果であり,生活習慣との関連は認められなかった。
    結論 尺度が作成されたのが1978年であるものの,一部項目のワーディングを変更することで現代でも使用可能であることが示された。今後はコミュニティ意識を向上させる方法論の検討とともに,健康に影響を与える機序についての検証が必要である。
研究ノート
  • 光武 誠吾, 柴田 愛, 石井 香織, 岡崎 勘造, 岡 浩一朗
    2011 年 58 巻 5 号 p. 361-371
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 インターネット上の健康情報を有効に活用するためには,適切に健康情報を検索し,評価し,活用していく能力(e ヘルスリテラシー)が必要であるが,我が国では e ヘルスリテラシーを測る尺度すらないのが現状である。本研究では,欧米で開発された eHealth Literacy Scale (eHEALS)の日本語版を作成し,その妥当性と信頼性を検討するとともに,e ヘルスリテラシーと社会人口統計学的特性およびインターネット上の健康情報に対する利用状況との関連を検討した。
    方法 社会調査会社にモニター登録している3,000人(男性:50.0%,年齢:39.6±10.9歳)にインターネット調査を実施した。eHEALS 日本語版 8 項目,社会人口統計学的特性 6 項目,インターネット上での健康情報に関する変数 2 項目を調査した。探索的因子分析による項目選定後,構成概念妥当性は,確証的因子分析による適合度の確認,基準関連妥当性は,相互作用的•批判的ヘルスリテラシー尺度との相関により検討した。また,内部一貫性(クロンバックの α 係数)および再検査による尺度得点の相関により信頼性を検証した。さらに eHEALS 得点と社会人口統計学的およびインターネット上での健康情報に関する変数との関連の検討には,t 検定,一元配置分散分析,χ2 検定を用いた。
    結果 eHEALS 日本語版は 1 因子構造であり,確証的因子分析では一部修正したモデルで GFI=.988, CFI=.993, RMSEA=.056と良好な適合値が得られた。また,eHEALS 日本語版得点は,相互作用的•批判的ヘルスリテラシー尺度得点と正の相関を示した(r=.54, P<.01)。信頼性については,クロンバックの α 係数は.93であり,再調査による尺度得点の相関係数は r=.63 (P<.01)であった。eHEALS 日本語版得点は男性より女性,20代よりも40, 50代,低収入世帯よりも高収入世帯,インターネットでの情報検索頻度が少ない者より多い者で有意に高かった。また,eHEALS 日本語版得点の高い者は,健康情報を得るために多くの情報源を利用しており,その中でも特にインターネットを活用し,インターネットから取得している健康情報の内容も多様であった。
    結論 eHEALS 日本語版は我が国における成人の e ヘルスリテラシーを評価するために十分な信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認された。今後も増加するインターネット上の健康情報を個人が適切に活用するためには e ヘルスリテラシーが重要であることが示唆された。
資料
  • 北宮 千秋
    2011 年 58 巻 5 号 p. 372-381
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 放射線災害を想定した平常時の保健活動と保健師の認識をみいだすことを目的とした。
    方法 原子力施設立地県および隣接する 2 県の県保健所および市町村の全数にあたる124施設の健康危機管理を担当する保健師 1 人を対象とし,郵送による質問紙調査を行った。調査期間は2009年10月~11月。調査内容は過去10年の災害の有無,災害時保健師活動の研修受講の有無,放射線(原子力)災害の想定の有無,放射線災害へのマニュアルの有無,災害に関する不安,平常時の災害保健活動(業務量)などとした。倫理的配慮として,調査の趣旨,無記名とすること,自治体を特定しないこと,統計的に処理することなどを記載の上,調査票の投函をもって同意を得た。
    結果 調査票の回収率は71.8%であった。所属施設において放射線災害を想定しているのは 9 施設であり,放射線災害マニュアルは12施設が整備していた。防災訓練に参加しているのは 2 市町村,5 保健所であった。保健師の役割は 2 市町村ともに避難誘導の役割であり,4 保健所では,問診,健康相談,健康状態の把握,災害発生時の行動と体調の確認,精神的不安の軽減を行っていた。放射線に関する研修会への保健師の派遣は,原子力発電所の立地県の 4 施設にみられた。災害(全般)が発生したとき,保健師としての役割を果たす上での不安には,「知識不足(β=−0.404,P<0.01)」と「自分の安全性(β=−0.233,P<0.01)」が影響を与えていた。
    結論 マニュアル等の整備とともに,過去の住民への健康被害および対処行動に関する資料に触れる機会をもつことが,災害時の対応へと結びつくと考えられた。
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