日本公衆衛生雑誌
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原著
特定健康診査における標準的な質問票の生活習慣項目とメタボリックシンドローム,高血圧発症との関連:5年間の追跡調査
蔦谷 裕美舟本 美果杉山 大典桑原 和代宮松 直美渡辺 浩一岡村 智教
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2017 年 64 巻 5 号 p. 258-269

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抄録

目的 特定健康診査(以下,特定健診)では22項目から成る標準的な質問票が用いられている。しかし質問項目で把握された生活習慣とメタボリックシンドロームや高血圧の発症との関連を,地域住民で縦断的にみた報告はほとんどない。本研究では大阪府羽曳野市の国民健康保険加入者の5年間の特定健診データを用いて,標準的な質問票で把握された生活習慣が将来の脳・心血管疾患の危険因子の発症を予測できるかを検証した。

方法 平成20年度(2008年度)の国民健康保険加入者の特定健診受診者8,325人(男性3,332人,女性4,993人)をコホート集団として設定し2013年3月末まで追跡し,標準的な質問票で把握された生活習慣とメタボリックシンドロームまたは高血圧の新規発症との関連をみた。追跡対象としたのはメタボリックシンドロームの解析では4,720人,高血圧の解析では3,326人であり,これは2008年度にそれぞれの危険因子を保有している者等を除外したためである。解析はCoxの比例ハザードモデルを用いた。

結果 メタボリックシンドロームの検討における追跡期間の中央値は男性で3.1年,女性で3.6年であり,追跡期間中に計570人がメタボリックシンドロームを発症した。年齢と腹囲を調整しても,男性では,就寝前2時間以内に夕食をとることが週3回以上,あるいは20歳の時の体重から10 kg以上増加があると,メタボリックシンドロームの発症リスクが有意に高く,それぞれのハザード比は1.43(95%信頼区間1.09-1.88),1.33(95%信頼区間1.01-1.75)であった。また,男性の時々飲酒は非飲酒と比べて有意に発症リスクが低かった。一方,女性では,この1年間で体重の増減が3 kg以上あった人,あるいは20歳の時の体重から10 kg以上増加している人はメタボリックシンドロームの発症リスクが有意に高く,それぞれのハザード比は1.83(95%信頼区間1.40-2.40),2.02(95%信頼区間1.52-2.68)であった。また,女性の毎日飲酒(日本酒換算1~2合未満)は非飲酒と比べて有意に発症リスクが高かった。高血圧の検討においては1,045人が高血圧を発症したが,男性の飲酒を除いて高血圧の発症と関連する問診項目はなかった。

結論 標準的な質問票の大部分の項目は,少なくとも5年以内のメタボリックシンドロームや高血圧の発症との関連を認めず,脳・心血管疾患のハイリスク者のスクリーニングには適していないことが示唆された。

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© 2017 日本公衆衛生学会
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