日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生活動報告
国際空港を管轄する保健所が新型コロナウイルス感染症オミクロン変異株発生時の水際対策強化で受けた影響の分析
関 なおみ三上 愛國府 隆子日下 田鶴山口 加代子高橋 千香伊津野 孝齋藤 智也
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2024 年 71 巻 12 号 p. 775-786

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抄録

目的 大田区は東京都特別区内で最も面積が広く,管内にある羽田東京国際空港を中心に全国各地への交通網が発達し,各種宿泊施設が多数散在している。新型コロナウイルス感染症のオミクロン変異株(以下,オミクロン)が海外で報告された後,日本で実施された水際対策が国際空港を管轄する保健所の業務や人員体制へ与えた影響を分析し,新興・再興感染症発生時に取るべき有効かつ効率的な水際対策の在り方について,現場から提言することを目的とする。

方法 水際対策強化に係る厚生労働省通知の変遷,オミクロン陽性者の航空機内接触者(以下,機内濃厚接触者)およびオミクロン陽性者の状況,大田区保健所の状況について分析を行った。また国際空港を管轄する4保健所に対し,水際対策強化時の応援体制と,関係機関との連携,課題,次の感染症危機発生時に水際対策を実施する際の提案についてアンケート調査を行った。

結果 機内濃厚接触者への対応に関する自治体への通知は2021年11月30日から発出され,国内感染の濃厚接触者と同等の対応とされた2022年1月14日まで頻回に更新された。大田区保健所が2021年12月1日~2022年1月12日に調査した機内濃厚接触者は720人,検査対応件数は470件で,うち陽性(オミクロン)は1件だった。同期間中に機内濃厚接触者以外で対応した検体件数(ゲノム解析のため回収した陽性検体57件含む)は136件で,オミクロン陽性が確認されたのは40件だった。4保健所に実施したアンケート調査の結果では大田区で抽出された課題や提案と大きな相違はなく,課題の大半は,日本に居住実態を持たない一時帰国者の多くが国際空港周辺の宿泊施設に滞在するために生じていた。

結論 水際対策は病原体の急激な国内流入を防ぎ,市中感染に備える時間を稼ぐために実施するものであり,国内感染への対応を主とする保健所に負荷が生じることは望ましくない。病原性や感染力が不明の状況において対応方針が都度変更されることはやむを得ないが,逐次実務に対応している検疫所や保健所といった現場からの情報を集約し,国の政策レベルでそれらに基づいた合理的な判断ができる体制を整備しておく必要がある。また感染症危機管理における緊急時対応が集中する可能性がある地域には,指示の統一と円滑な情報共有のため,国等からリエゾンを配置するといった支援体制も重要と考えられた。

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