2024 年 71 巻 12 号 p. 766-774
目的 新型コロナウイルス感染症拡大により,2020年4月7日に緊急事態宣言が発出され,不要不急の外出の自粛が要請された。外出自粛要請による高齢者の生活や健康に及ぼす影響は,国内外で多く報告されている。高齢者の健康づくりに必要な睡眠への影響も報告されているが,国内の高齢者において,新型コロナウイルス感染症拡大における生活の各種変化と睡眠との関連についての知見は多くない。そこで,本研究では,高齢者における新型コロナウイルス感染症拡大前後の睡眠,とくに睡眠時間の変化の関連要因を検討した。
方法 福島県福島市在住の65歳から84歳までの男女1,808人を無作為抽出し,郵送調査法による無記名自記式調査を実施した。新型コロナウイルス感染症拡大前と比較して「睡眠時間」が減少したか否かを従属変数,基本属性,新型コロナウイルス感染症拡大前と比較した生活における各種変化,ストレス,地域との関わりの各調査項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 調査対象者1,808人のうち,1,305人(回答率72.2%)から回答があり,従属変数に欠損のあった108人を除外した1,197人(有効回答率66.2%)を分析対象とした。睡眠時間が減ったと回答した人は155人(12.9%)であった。睡眠時間減少と有意な関連を示したのは,「社会活動・人とのつながり(減少)」〔オッズ比(以下,OR):2.55,95%信頼区間(以下,95%CI):1.54–4.22〕,「運動を行う日の平均運動時間(減少)」(OR:2.69,95%CI:1.38–5.24),「最近1か月間のストレス(感じる)」(OR:2.41,95%CI:1.43–4.06)の3項目であった。
結論 新型コロナウイルス感染症拡大禍において,高齢者の睡眠時間の減少に,社会参加や社会活動の減少および運動不足,ストレスが有意に関連していた。睡眠時間の減少を避けるためには,感染対策を講じた上での社会参加や社会活動の継続,および個人で簡単にできる運動やレクリエーションを日々実施して,運動時間の確保とストレスの解消につなげることが重要であると考えられる。