2026 年 73 巻 8 号 p. 729-737
目的 新型コロナウイルス感染症の流行下(以下コロナ禍)において市町村保健師が行った保健活動およびその中で抱いた葛藤を明らかにし,今後の市町村保健師の示唆を得ることである。
方法 フォーカス・グループ・インタビュー(以下FGI)を2022年5月に市町村保健師を対象に実施した。FGIで得られた語りから逐語録を作成し,質的帰納的分析を行った。
結果 研究協力者は市町村保健師8人で,在職期間の平均は23.88年であった。分析の結果,コロナ禍で行った保健活動として【急増する経験のない新たな感染症業務に奔走】【配慮が必要な住民やその支援者への対応】【保健活動の継続・再開を最優先とした対応】【住民の生活低下を最小限に止めるため新たな施策展開】【自粛による健康影響を防ぐための地域連携と情報マネジメント】【健康危機管理時における保健師の基盤強化】の6つのカテゴリが抽出された。
また,保健師が抱いた葛藤は【これまでの保健師の役割を超えた対応を迫られることへの戸惑い】【本来であれば支援を待つ人に必要な支援ができない苛立ち】【住民のために行った事業は保健師よがりだったのではという揺らぎ】【保健所や地域の関係機関と連携が上手くいかないもどかしさ】【組織の方針と地域の実態との乖離に混迷】【感染拡大禍で保健師として活動ができない強いジレンマ】【感染対策に関する知識不足や精神的サポート体制の不備による活動の迷い】の7つのカテゴリが得られた。
結論 コロナ禍において,市町村保健師は個別支援の限界や経験のない感染症対応を経験した。一方で,平時に築いた地域との信頼関係や保健サービスの基盤を活用し,住民支援を継続していた。また,業務の優先判断や住民対応において倫理的葛藤を抱える場面が多く,心理的負担を抱えていた。