2016 年 1 巻 2 号 p. 57-62
質量分析計を用いたタンパク質定量法として,安定同位体標識ペプチドを内部標準とし,Selected Reaction Monitoring(SRM)で検出する内部標準法が広く普及している.SRMによるタンパク質定量は,①測定対象ペプチドの選択と標識ペプチドの作成,②SRM transitionの作成,③試料の酵素消化,④質量分析とデータ解析から構成される.近年リリースされたSkyline Softwareはペプチドについて,各社の質量分析計に適したtransitionを作成することができる.本ソフトウェアを用いることで,①測定ペプチドの選択および②transitionの作成をスムーズに行うことが可能である.③試料の酵素消化はプロテオミクス研究の基礎であるが,現状における定量プロテオミクスの最大の問題点でもある.すなわち,内部標準を試料処理後に添加するため,処理過程における試料損失が補正されておらず,本法で求める定量値は過小評価されている可能性がある.本論文では,我々が行っている前処理過程における試料損失を評価するための取り組みを紹介する.