2023 年 8 巻 1 号 p. 13-17
ボトムアッププロテオミクスでは試料調製プロセス,特にタンパク質をペプチドに酵素消化する効率が,タンパク質同定及び定量結果に大きな影響を与える.これまでに酵素消化法はいくつも開発されてきたが,一般的に変性剤を用いてタンパク質を完全に可溶化することが効率的な消化には必要であると考えられてきた.しかし,変性剤はその後の試料調製及び質量分析計( LC-MS)による計測に悪影響を及ぼすため,必ず除去する必要があり,超微量試料や多検体試料のプロテオミクス試料調製を行ううえでサンプルの喪失やスループットの低下といった課題があった.近年,タンパク質の酵素消化において変性剤を含まず,タンパク質の溶解が不完全な状態で実施する方法が複数報告され,その消化効率がタンパク質を可溶化し酵素消化する方法と同等か,あるいはそれ以上であることが示された.本総説では近年開発された不溶化状態でのタンパク質の消化法とその応用例について紹介する.