抄録
飼料中のアルギニンあるいはリジン含量を過剰にすると,鶏の腎臓アルギナーゼ活性が増加し尿素排泄量が増加する。また,α-アミノイソ酪酸(AIB)を添加すると腎臓アルギナーゼ活性と尿素排泄量は減少する。そこで,鶏に対するアルギニン不足-リジン過剰飼料の給与ならびにこの飼料への過剰アルギニン,AIBおよび尿素の添加がN出納および尿中N成分量におよぼす影響を検討した。人工肛門を設着した単冠白色レグホン種成鶏雄を個別ケージに収容し供試した。カゼイン10%とコーンスターチを主原料とし,アルギニン含量が不足でリジン含量が過剰の飼料を基礎飼料とし,これにL-アルギニン塩酸塩2%,AIB O.5%および尿素1%を組合わせて添加した計8種類の試験飼料を用いた。
基礎飼料を与えられた鶏の糞および尿中へのN排泄率はそれぞれ約15および88%で,吸収Nのほとんどが尿中に排泄され負のN出納を示した。この基礎飼料にアルギニンあるいはAIBを単独にまたは同時に添加すると正のN出納を示した。これはアルギニンの添加によるアルギニン要求量の充足あるいはAIB添加によるアルギニン分解量の低下に基づく尿酸排泄量の減少によるものと推察された。AIBを添加すると尿中尿素態N量が著しく減少し,アルギニンと共に添加すると尿中アルギニンが著しく増加した。従って,AIBは腎アルギナーゼ活性を抑制してアルギニンを節約する作用をもつ一方,過剰アルギニンの腎排泄を促進させる作用をもつものと推測された。尿素添加飼料給与時の糞N量はいずれの飼料においても尿素無添加時とほぼ同値を示したが,尿N量はすべての飼料において増加した。AIB無添加時の尿N増加量は尿素態N摂取量の約1.4倍を示しN蓄積量は減少した。AIB添加時の尿N増加量は尿素態N摂取量とほぼ同量かその約2/3で,N蓄積量はほぼ同じかあるいは幾分増加した。尿中N成分のうち,尿素添加により尿素態Nは全ての飼料において有意に増加したが,AIBのみ添加飼料への尿素添加による増加量は,基礎飼料給与時の増加量の約1/3であった。尿酸態Nも全ての飼料において尿素添加により増加したがAIB添加時のこの増加量はAIB無添加時の半分以下であった。これらのことから,飼料尿素は飼料中過剰リジンあるいはアルギニンの過不足にかかわらず鶏によって十分利用されないだけでなく,尿酸の生成および排泄量を高め飼料蛋白質の生物価を低下させる要因になるものと推察された。AIBは尿素摂取による尿酸排泄増を緩和して飼料蛋白質の生物価の低下を防止し,さらにアルギニン不足-リジン過剰飼料に添加した尿素の尿中排泄にも関与している可能性が示唆された。従って,AIBは飼料中過剰リジンあるいはアルギニンの過不足等による尿中N排泄に対し,飼料尿素の代謝を含めて種々の係わりを持っているものと考えられた。