1996 年 42 巻 5 号 p. j15-j20
牛胚の凍結保存における凍結保護剤としてのメチルセルソルブ(Methyle cellosolve;MC)の有効性を評価するために,まず体外受精胚を用いて冷却速度および使用濃度を検討し,次いで体内受精胚および体外受精胚を用いて直接移植法による受胚牛への移植試験を実施した.なお,その際エチレングリコール(EG)との比較を行った.1.3 M-MCの存在下で,体外受精由来胚盤胞を-6 Cで植氷後,毎分-0.3 Cあるいは-0.5 Cの速度で-30 Cまで冷却を続け,液体窒素中に浸漬した.融解後の生存性に冷却速度間で差は認められなかったが,脱出胚盤胞への発育率において毎分-0.3 Cで有意(P<0.01)に高い成績が得られた[57.5%(23/40) vs 25.7%(9/35)].植氷後の冷却速度として毎分-0.3Cを採用し, MCでは1.1 M, 1.3 Mおよび1.5 Mを,EGでは1.5 M, 1.8 Mおよび2.1 Mをそれぞれ用いて体外受精由来胚盤胞を凍結融解した結果,各濃度間で胚の生存率に有意差は認められなかったが,MCでは1.3 MおよびEGでは1.8 Mで生存率ならびに脱出胚盤胞への発育率が高い傾向を認めた.黒毛和種成雌牛に卵胞刺激ホルモンの減量投与法により過剰排卵を誘起し,人工授精後7~8日に回収した胚と体外授精由来胚盤胞を1.3 M-MC存在下で凍結保存し,融解後に凍結保護剤を除去することなく発情周期6~8日に受胚牛の黄体側子宮角に頸管経由法により直接移植した結果,それぞれ48.3%(14/29),47.6%(10/21)の受胎率が得られた.一方,1.8 M-EG存在下で体内受精および体外受精胚を凍結融解し直接移植した結果,それぞれ50.0%(16/32),63.0%(17/27)の受胎率が得られたが.MCで得られた受胎率との間に差は認められなかった.以上の成績から,MCは,EGと同様牛胚の直接移植を目的とした凍結保存のための凍結保護剤として有効であることが明らかとなった.