抄録
【目的】哺乳動物の精子形成は精細管内で進行するが,その過程は多数のホルモンや細胞間相互作用により複雑な調節を受けている。卵胞刺激ホルモン(FSH)は精細管内のセルトリ細胞や生殖細胞に作用し,精子形成において重要な働きをする。げっ歯類におけるFSH作用の発現はFSHレセプターの発現レベルが深く関与しているため,精上皮周期のステージ特異的なFSHの作用はその濃度の変化よりも,FSHレセプターの発現レベルの変化によって調節されることが報告されている。また,これまでFSHレセプターの局在はセルトリ細胞上に限定されてきたが,近年,生殖細胞にも存在する可能性が示された。そこで本研究ではヤギ雄性生殖細胞の分化とFSHレセプターの発現との相互作用を検索することを目的に,ヤギ精巣を組織化学的,分子生物学的に解析した。【材料および方法】精巣は0.5-6および24ヶ月齢の日本ザーネン種雄ヤギから摘出した。精巣組織は直ちに液体窒素で凍結保存,またはブアン固定後パラフィン包埋し,8μmの切片を作成した。組織切片はPAS染色し,光学顕微鏡で各分化段階の生殖細胞数を計測した。精巣total RNAは凍結保存組織から定法に従い,抽出した。FSHレセプター遺伝子発現の変化は半定量RT-PCRにより調べた。【結果】0.5,1,1.5ヶ月齢の精細管では胚芽細胞およびA型精原細胞,2ヶ月齢ではザイゴテン期精母細胞,3ヶ月齢ではパキテン期精母細胞が確認された。4ヶ月齢以降の精細管では精子が確認された。1.5ヶ月齢から3ヶ月齢,および3ヶ月齢から4ヶ月齢の精細管の比較において生殖細胞数が著しく増加した。半定量RT-PCRの結果から有意ではないが,月齢の異なる精細管の比較において,FSHレセプター遺伝子発現レベルに違いが認められた。このことから,ヤギ雄性生殖細胞の増殖および分化とFSHレセプター遺伝子の発現レベルとの間の相互作用の存在が示唆された。