2016 年 57 巻 1 号 p. 1-25
ホッカイエビ(Pandalus latristris)は,北海道において夏季の特産食材として扱われる沿岸水産資源である。北海道厚岸郡厚岸のホッカイエビかご漁業は,平成19年に一年間の休漁の後に漁業規則を改定し,平成20年以降は漁獲努力可能量を大幅に削減しながらも,漁獲量と漁獲金額高の増加を実現させた。本論では,地域共同体が主体となって実践する責任ある漁業の内発的発展の厚岸ホッカイエビ漁を用いて,資源管理を環境保全と資源開発の相関的関係からとらえるエリアケイパビリティー概念の整理をおこなう。第一に,英語圏の文化・社会人類学の領域のおける自然資源利用と保全に関する研究の潮流を整理し,エリアケイパビリティー概念の学術的位置と意義を確認する。そしてホッカイエビ資源の回復と利用に関する民族学的考察では,ホッカイエビの資源回復と社会的・生態的持続可能な利用への社会過程を,生産者による科学知の享受,地域文化との整合性,異なる行為主体者が繋がった社会ネットワークの構築,そして「恥の回避」という文化的要因について論じる。その上で,エリアケイパビリティー概念の有用性とさらなる援用のための課題について考える。