2016 年 57 巻 1 号 p. 27-42
沖縄県国頭,読谷村の各漁協では,定置網漁業を自営して,増大した観光客をターゲットとした食堂も自営することにより,積極的な六次産業化への取組を行っている。これらの漁協ではなぜ食堂の開業に踏み切ったのか,その背景と現状について分析を行った。複数の事例を比較分析することにより,今後の課題等を浮き彫りにし,存続条件を明らかにする。
これらの食堂ではいずれも自営定置網漁業の漁獲物を主要な食材として利用し,漁獲物に付加価値を付けている。定置網漁業では多種多様な魚介類が漁獲され,漁場が港から近いこともあり,高鮮度の漁獲物が入手できる。一般の水産物流通の場合,単一魚種でまとまった量をそろえないと,販売がむずかしいが,漁協自営の食堂の場合,少量漁獲種も食材として有効に価値を与えることができる。また食堂を自営することによって定置網以外の漁獲物の価格を下支えすることもできた。観光定置についてみると,沖縄では本土に比べ海の透明度が高く,魚体がカラフルで美しいことから,本土よりも魅力的で人気が高まっているようである。これらの六次産業化は,地域での雇用拡大にもつながっており,地域経済波及効果もある。