抄録
正常組織の放射線障害を防ぐ方法の一つとして、放射線防護剤の使用が考えられる。放射線防護剤は、予想される被ばくの種類に応じて必要とされる性質が異なるであろう。例えば、事故あるいはテロによる多数の人間が被ばくするような状況を想定した場合、必要とされる防護剤は、被ばく後に投与して有効であること、簡単な方法で投与できること、安価で保存性がよい物質であること等の性質を有するものになる。一方、医療における防護剤を考えた場合は、照射前に予め投与しておくことができる点が事故やテロの場合と根本的に異なるが、さらに治療と診断では要求されるものが異なってくる。放射線によるがん治療に防護剤を使用する場合は、正常組織は防護しても腫瘍組織は防護しないという性質が重要になってくる。放射線診断における防護剤では、多数の普通の人に使用すると言う点から、副作用がないという性質が重要になってくる。このように、一口に防護剤と言っても、何を対象にするかによって要求される性質が異なるのである。本シンポジウムでは、これらの点を踏まえて、現在の防護剤研究の状況について演者らの研究成果を交えて紹介したい。