抄録
21世紀初頭の数年間は、RNA研究にとって大躍進の時代となった。2006年のノーベル生理学医学賞に決まった、RNA干渉とよばれる「小さなRNAの大きな」威力。タンパク質を合成する巨大なRNAマシーンの構造の解明。そして、ヒトゲノムの「陰のプログラム」らしい膨大な「ジャンクRNA」の発見、等々。これらの発見が、生命の誕生から脈々とその発展を演出してきたRNAを、ようやく生命科学の檜舞台に押し上げた。機能性RNAは二つに大別される。一つは、アンチセンスやRNAiに働くRNAなど、配列相補性に依存して働くもので、もう一つは、RNAアプタマー(タンパク質と同様に立体構造を作って働く分子)のように、配列相補性に依存しないで働くものである。RNAアプタマーは、抗体に代わる“次世代高分子医薬”と位置づけられるものであり、RNAi医薬に先駆けて、抗VEGFアプタマーが加齢黄斑変性症の治療薬(Macugen)として既に上市された。我々も1997年からRNAアプタマー研究を開始し、その特性について本格的なfeasibility studyを実施した。我々がこの研究を始めた動機は、翻訳因子とtRNAとが、タンパク質とリボ核酸という全く異なる生体高分子を使いながら、相互に形や機能が瓜二つともいえる「分子擬態」という現象を発見したためである。これらの成果をふまえ、「RNAは化ける」をコンセプトとするRNA医薬品の開発をスタートした。これらの研究によって、日本発・世界初のRNA新薬の実現とともに、生命の誕生と進化に果たしたRNAのポテンシャルを明らかにしたい。