抄録
近交系マウスC3H/Heは放射線により骨髄性白血病を頻発する系統として知られている。我々はC3H/Heマウスに由来する放射線誘発骨髄性白血病細胞においてレトロトランスポゾンintracisternal A-particle (IAP) DNA elementの挿入によるゲノム構造異常の頻発することを見出し、これがレトロトランスポジション機構によるIAP RNAからIAP cDNAの逆転写およびそのゲノムDNAへの組込みに由来することを報告してきた。IAPのようなゲノム内の反復配列に由来する不完全RNAから完全長のcDNAが逆転写されてゆくレトロトランスポジションの分子機構については研究が殆どなされていない。我々はIAP RNAの逆転写過程およびその放射線影響を解析するために、独自開発したライン化細胞を使用した逆転写レポーター遺伝子システムを基盤として、トランスジェニックマウスを樹立し、逆転写の解析を行った。
特殊なマーカー塩基配列を組み込んだIAP RNAを強制発現するようにデザインした逆転写解析用のトランスジーンを、C3H/He マウス胚に導入して19系統のトランスジェニックマウスを作出し、7系統のhomo系統を樹立した。当該マウスの組織におけるトランスジーンに由来する特有の逆転写物を同定し、レトロウイルスに類した逆転写機構が機能していることを明らかにした。マウスの各種組織における極微量の逆転写物をreal-time PCRで定量したところ、逆転写物レベルは、造血系細胞、腸管細胞、生殖細胞などの放射線に脆弱な組織で高く、肝臓等の放射線耐性の組織では低かった。当該マウスの使用により、レトロトランスポジションの逆転写過程を全身レベルで解析可能であることが示された。