抄録
我々の開発した2-ヒドロキシエチルメタクリレートとスチレンのABA型ブロック共重合体(HEMA-St)は、その表面にラメラ型の親水性、疎水性の微細相分離構造を取り、血小板の活性化を抑制し優れた抗血栓性を示すことが解かっている。その抗血栓性発現機序として、表面の微細構造に対応した組織構造を持つ吸着蛋白層が血小板活性化抑制、ひいては血栓形成抑制に大きく関与しており、さらにこの表面の薄い蛋白層がin vivo長期にわたり安定して存在し抗血栓性を保つことがすでに示されている。この組織構造を持つ安定した蛋白層を血管内皮細胞に匹敵する新しい抗血栓性材料として注目し、小口径人工血管に応用した。内径3mm、7cm長のダクロン製人工血管の内面をポリウレタンでコートし平滑にした後、HEMA-Stコートを施し内面平滑な人工血管を作成した。雑種成犬8頭の両側頚動脈に埋め込みその長期開存性を観察した。3頭をウイルス感染で失ったが、残り5頭の人工血管は埋め込み後14-92日で全例開存が確認され、現在さらに長期の経過を観察中である。以上のようにHEMA-Stを内面にコートした小口径人工血管は内皮細胞に匹敵する優れた抗血栓性を示し、さらに内皮細胞播種型人工血管、生体血管などで問題となる生体組織使用に伴う煩雑さ、不確実さ、特別な設備の必要性が無く、品質管理や滅菌も容易であり、今後の臨床応用が期待される。