2022 年 13 巻 1 号 p. 35-41
大災害後は医療機能の低下と需要の増大が同時に起こる。慢性血液透析はとくに多くの医療資源,水,電力を必要とする医療であるため,災害に対して脆弱であるが,限りある資源で最大多数の患者の命を救うことが原則となる。東日本大震災では広域で甚大な被害が発生し,復旧まで治療が中断した患者や,安全な地域へ移動して透析を受けた患者もいた。すべての患者や家族に上記の原則を説明して十分な理解を得るのは難しかったが,透析患者と医療者の平素の関係性を土台にした危機意識の共有は被災後の医療継続にとって大きな力であった。一方で増大する医療需要,劣悪な環境の下で業務を継続した医療従事者,透析治療により生命が維持されている被災患者に生じうる精神症状への理解や,心のケアを行う資源は十分ではなかった。平時から緊急事態を想定し,透析治療が中断する事態や,精神的ケアについての知識と対策を知ることは災害への備えとして重要である。