日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
Print ISSN : 2185-1085
13 巻, 1 号
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Invited review
  • 阿部 貴弥, 山路 健
    2022 年 13 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    アフェレシス療法においても2007年にAmerican Society for Apheresis(ASFA)よりガイドラインが発刊され,その後改訂が繰り返され2019年に最新版が発刊されている。米国では遠心分離法を用いたアフェレシスが中心であり,わが国では膜分離法が中心である。そのためASFAのガイドラインをわが国に持ち込むことは多くの問題点が生じる。2017年より日本版アフェレシス治療ガイドラインの作成が開始され,2021年夏に「日本アフェレシス学会 診療ガイドライン2021」の発刊に至った。本ガイドラインでは,救急疾患,血液疾患,膠原病・リウマチ性疾患,呼吸器疾患,循環器疾患,消化器疾患,神経疾患,腎臓疾患,皮膚疾患の9領域,86疾患を網羅した。また膜技術を用いた新しい治療法として,plasma filtration with dialysis(PDF)を取り上げた。

  • 白髪 裕二郎, 小野 淳一, 小笠原 康夫, 望月 精一
    2022 年 13 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    持続的腎代替療法において,回路内凝血トラブルを迅速に検知することは非常に重要な課題である。われわれは,回路内凝血トラブルに対する新しいモニタリング手法の開発のために,その基礎実験として,短時間で回路内凝血を模擬できる凝血加速モデルの構築を試みた。クエン酸の投与で動脈回路内を抗凝固しながらダイアライザーで透析・除去することで,静脈回路内の濃度を低下させて静脈チャンバー内で凝血させた。そのために,シングル・コンパートメント・モデルに基づいて推定した動・静脈回路内のクエン酸濃度を用いて,実験的に静脈側回路内の牛血液中のクエン酸濃度を変化させ,回路内凝血の有無や凝血時間を調べた。動脈回路側のクエン酸濃度を10.0〜12.0mMに調整することで動脈側回路の抗凝固を維持しつつ,透析によって静脈側クエン酸濃度を5.1mMに低下させ,静脈チャンバー内で凝血時間129分を達成した。

総説
  • 小丸 陽平
    2022 年 13 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    実験科学,理論科学,計算科学に次いで,「第四の科学」とも呼ばれるデータサイエンスが隆盛している。医療分野における今回の人工知能(AI)ブームでは計算機の飛躍的な性能向上に加え,電子カルテをベースとした多変量電子データの蓄積が原動力となった。2019年にはGoogle傘下のDeepMind社がニューラルネットワークを応用して急性腎障害の発症予測システムを発表して話題となった。急性血液浄化療法を含む集中治療分野は,比較的豊富なデジタルデータの採取が可能であることから,AIによる診療サポートが開発されやすい土壌がある。しかし,AIの医療分野での実用化には課題もある。医療職の技術・判断力の低下やプライバシー保護,自動算出された結果の解釈可能性の問題などが一例である。今後AIの医療応用の流れが変わることは考えにくく,真のベネフィットにつながるようなヒトとAIの共存方法を模索すべきである。

  • 土屋 陽平, 塚本 功, 渡辺 裕輔
    2022 年 13 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    近年の重症患者に対する集中治療では,ショックや蘇生といった生命維持のための診療に加えてICU退室・退院後も見据えた管理が求められ,ICU入室前の状態にいかに戻せるかが重要なミッションとなっている。ICU入室の弊害として,身体活動の制限や非日常的な環境などのさまざまなストレスにさらされることがあげられる。とくに,集中治療後症候群は長期予後に影響するため,その予防と対策が重要で,多職種が協働し互いの専門性を発揮していく必要がある。CRRTは,連続的に実施することで離床を妨げ,装置から生じる光や騒音が睡眠の妨げになりうることから,それらはCRRT traumaであると認識する必要がある。集中治療の場であっても患者には身体活動や睡眠が必要であり,心地よさや安全の提供は医療者の責務である。問題を発見したら技術的思考から解決することをモットーに,CRRTによる離床や睡眠の妨げを臨床工学技術で低減させるための知見を多角的な視点で考えたい。

  • 丸山 拓実, 浜田 幸宏, 海老原 文哉, 木村 利美
    2022 年 13 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)は急性腎障害や敗血症などの重症感染症患者などにおいて,腎機能の代替やサイトカイン除去を目的として用いられるが,CRRT施行中の薬物は,体内動態の変化を引き起こすことがある。CRRT施行時には抗微生物薬を投与する場面も多く,有効性や安全性,耐性菌発現抑制の観点から薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論に基づいた投与が求められる。PK/PD理論に基づく投与設計は,薬物動態の基本パラメータであるクリアランスと分布容積を理解することが重要である。本稿では,CRRT施行時において抗微生物薬の薬物動態の特性と変動について概説し,当院で経験した症例を踏まえ,実際の投与設計や薬物治療モニタリングの考え方について解説する。

  • 藤倉 恵美, 宮崎 真理子
    2022 年 13 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    大災害後は医療機能の低下と需要の増大が同時に起こる。慢性血液透析はとくに多くの医療資源,水,電力を必要とする医療であるため,災害に対して脆弱であるが,限りある資源で最大多数の患者の命を救うことが原則となる。東日本大震災では広域で甚大な被害が発生し,復旧まで治療が中断した患者や,安全な地域へ移動して透析を受けた患者もいた。すべての患者や家族に上記の原則を説明して十分な理解を得るのは難しかったが,透析患者と医療者の平素の関係性を土台にした危機意識の共有は被災後の医療継続にとって大きな力であった。一方で増大する医療需要,劣悪な環境の下で業務を継続した医療従事者,透析治療により生命が維持されている被災患者に生じうる精神症状への理解や,心のケアを行う資源は十分ではなかった。平時から緊急事態を想定し,透析治療が中断する事態や,精神的ケアについての知識と対策を知ることは災害への備えとして重要である。

原著
  • 巽 博臣, 千原 伸也, 赤塚 正幸, 数馬 聡, 黒田 浩光, 相坂 和貴子, 後藤 祐也, 棚橋 振一郎, 山口 真依, 島田 朋和, ...
    2022 年 13 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    【背景】CRRTでは電解質が除去されるため,電解質濃度が急速に変化する可能性がある。高度のNa濃度異常では,Na濃度の急速な補正により橋中心脱髄症候群や脳浮腫などの有害事象が生じるため,血中Na濃度を12mEq/L/day(0.5mEq/L/hr)以内で緩徐に補正することが推奨されている。【方法】市販の透析液/補充液はNa濃度が140mEq/Lであるため,低Na血症では5%ブドウ糖を,高Na血症では10%NaClを混注し,血中Na濃度に応じた透析液/補充液のNa濃度調製を行った。【結果】10例(高Na血症5例,低Na血症5例)にNa濃度を調製した透析液/補充液を用いてCRRTを行ったが,24時間後のNa濃度変化は12mEq/L以内に抑えられ,安全に施行できた。【結語】高度のNa濃度異常を伴う症例でCRRTを安全に施行する上で,透析液/補充液のNa濃度調製は有用と考えられた。

症例報告
短報
技術・工夫
  • 清水 弘太, 栗山 直英, 森山 和広, 加藤 政雄, 中村 智之, 原 嘉孝, 幸村 英文, 稲熊 大城, 西田 修
    2022 年 13 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    【はじめに】血液浄化装置で使用される静脈側エアートラップ(V)チャンバーは,血液浄化施行時の凝固の要因となる。今回,異なる形状のVチャンバーを用いて滞留時間を基礎実験にて評価した。【方法】コンソールはPrismaflex とACH-Σを使用した。模擬血液用原液1mLをVチャンバーに注入してから色素が消失するまでの時間を3回ずつ測定し,その平均値を比較した。また目視にてVチャンバー内での流体を評価した。【結果】Vチャンバー内での流体滞留時間はPrismaflex群が有意に短かった(Prismaflex群:17.5±0.7秒 vs ACH-Σ群:51.2±0.7秒,p<0.05)。また,流体の目視評価において,PrismaflexではVチャンバー内で旋回流として均一に流れ入るのに対し,ACH-Σでは底部のみが拍動性に不均一に流れ,液面上層部において滞留が確認できた。【結語】Vチャンバーの構造の違いがVチャンバー内での滞留に影響を与える可能性が示唆された。

  • 鷲田 直輝
    2022 年 13 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    透析患者の高齢化やCOVID-19感染症対策は急務である。高齢者腹膜透析の最大の問題は介護者の負担と見守り体制の不備である。われわれはinformation and communication technology(ICT)を活用した連携体を構成している。この連携体は,遠隔モニタリングクラウドネットワークで,大学腹膜透析本部と五つ以上からなる訪問看護ステーション(訪看ST)を結んだものである。この見守り連携体を“サイバービレッジ”(Cybervillage:CV)と命名した。医師6名が患者治療状況を週1回特定のチェックシートに記入し,このチェックシートをクラウドを通してCV全体で共有する。チェックシートを基に,訪問STは訪問時にわれわれが定めた対応アルゴリズムに従い,処置,検査(出口部感染の培養など)や看護指導を行っている。さらに訪問状況報告シートをCV全体で共有している。上記情報は編集し,実践的な教育教材となる。以上のようなCVの創出・実践を通して高齢者在宅医療の問題点や解決策を提示し,今後の発展を目指す高齢者在宅医療モデルケースを提案したい。

  • EXCELFLO® AEF-13とHEMOFEEL® SNV-1.3の比較
    山崎 竜魅, 安達 寧々, 小田 裕一, 矢野 武志, 谷口 正彦, 白阪 哲朗
    2022 年 13 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    近年polysulfone(PS)膜の中空糸内表面にNVポリマーを局在化させた「HEMOFEEL SNV」が販売された。NVポリマーはタンパク質の付着(ファウリング)が抑えられ,抗血栓性の向上が期待されている。HEMOFEEL® SNVの透水性能と抗血栓性を調べるために他社PS膜と比較検討を行った。対象はPS膜を使用してcontinuous hemodiafiltration(CHDF)を実施した成人56例,膜本数226本である。対象をEXCELFLO® AEF-13使用群とHEMOFEEL® SNV-1.3使用群に分け,膜間圧力差(transmembrane pressure : TMP)と限外濾過率(ultrafiltration rate:UFR),施工時間(ライフタイム)を比較した。結果からHEMOFEEL® SNV-1.3使用群はTMPが有意に低く,また,UFRが有意に高いことから,高流量の濾過設定に有利であることが示唆された。

  • メトトレキサートクリアランスの検討
    大場 彦明, 宇城 敦司, 大塚 康義, 山本 泰史, 赤嶺 陽子, 芳賀 大樹, 菅 敏晃, 數田 高生, 松田 卓也, 坂口 高章
    2022 年 13 巻 1 号 p. 69-72
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    High dose-methotrexate(HD-MTX)投与後,排泄遅延を認めた際には毒性の軽減を期待して血液透析(hemodialysis:HD)や活性炭吸着膜を用いた直接血液還流による血液吸着療法(direct hemoperfusion:DHP)などの血液浄化療法が行われる。時間を延長して同一のDHP浄化器を使用した報告はなくクリアランスを検討した報告も少ない。われわれは,クリアランスと有害事象を確認しつつ最長24時間まで血液吸着を実施し,合併症をきたすことなく回復したMTX中毒の急性リンパ性白血病の小児症例を経験した。血液流量(Qb)60mL/minでDHPを行い,16時間継続した時点で除去効率,クリアランスがそれぞれ0.85,48.9mL/minと維持され,良好な除去率が得られた。成人に比して小さなQbで十分な血液浄化を可能な小児例では長時間DHPが実施できる可能性があるため,症例の積み重ねや実験での確認が望まれる。

  • 集中治療室における臨床工学技士の役割
    相嶋 一登
    2022 年 13 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    わが国では2020年2月のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号乗船者への対応から新型コロナウイルス感染症との本格的な戦いが始まった。これまで経験した新型インフルエンザ対応の経験を踏まえ,集中治療における人工呼吸療法,血液浄化療法などへの対応について,患者に対する直接対応の他に医療機器の選択など,試行錯誤を繰り返しながら行ってきた。臨床工学技士の重要な役割は,感染対策を念頭に置いた医療機器の選択,調達および他の医療従事者への使用法の説明,治療法や医療機器管理に関する情報収集と院内対策の立案,そして治療に関する直接的な対応である。人工呼吸器の構造上の違いを踏まえた機種の選択では,臨床工学技士のこれまでの経験,専門性が大きく活かされた。さらに遠隔モニタリングやIP無線を用いたコミュニケーションツールの導入といったさまざまなテクノロジーを医療現場に導入することも臨床工学技士の役割として重要であった。

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