2024 年 15 巻 1 号 p. 54-58
緩徐低効率濾過透析(sustained low efficiency dialysis with filtration:SLED-f)実施中の薬物動態に関する情報は極めて少なく,バンコマイシン(VCM)の投与量基準も定められていない。今回,SLED-f前後でのVCM血中濃度測定を行い,VCMクリアランスを求めた1症例について報告する。本症例は,末期腎不全にて維持透析を行っている患者で,呼吸苦と顔面全体の腫脹が出現したため当院へ救急搬送された。肺水腫を認め,さらに,左眼窩蜂窩織炎に伴う敗血症の診断にて,SLED-fの導入とVCM投与が開始となった。初回投与としてVCM 2g(28mg/kg)が投与され,投与終了30分後にSLED-fが実施された。SLED-fのヘモフィルター膜素材はpolymethyl methacrylate(1.8m2)を使用し,血液流量200mL/min,透析液流量2L/h,濾過流量2.9L/h,補液流量2.5L/hの設定で,透析時間は6時間であった。SLED-f開始直前,SLED-f終了1時間後のVCM血中濃度は,それぞれ63.3μg/mL,22.0μg/mLであった。得られたVCM濃度より算出したVCMクリアランスは5.56L/hとなり,腎機能正常時と同等となった。