抄録
自閉症は,社会的相互関係やコミュニケーションの障害,限定的な興味や常同行動を主徴とする発達障害である。発症には遺伝的要因が深く関与するが,近年染色体の欠失や重複等遺伝子コピー数の異常も重要なリスクファクターとして報告されている。なかでも,ヒト染色体15q11-13 領域の重複は最も頻繁に見られる染色体異常として知られ,自閉症発症の候補となる遺伝的変異である。この事実をもとに,われわれは染色体工学の手法を用いて,ヒト染色体15q11-13領域の相同領域である,マウス7番染色体上の領域を重複させたトランスジェニックマウスを作製し,その解析を行った。行動解析の結果,重複染色体を父マウスから受け継いだpatDp/+マウスは,社会性の異常,鳴き声を介したコミュニケーションの異常,低い行動柔軟性など,様々な自閉症様の行動を示した。したが って,このマウスは遺伝学的・行動学的にヒト型自閉症モデルとなりうると考えられた。また, patDp/+マウス脳の解析から,発達期および成体のいずれにもセロトニンシグナリングの異常を示唆する知見が得られ,自閉症の病態生理解明の一助となると考えられた。