抄録
神経発達症に含まれる自閉スペクトラム症は,社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥と,行動,興味および活動の限定された反復的で常同的な様式で特徴づけられる一群であるが,症候論的に均質性は確保されていない。病態は脳の発達や成熟が進む乳幼児期に生じ,病態仮説として,シナプス形成の異常,グリア細胞の機能異常,周産期の炎症や免疫の長期的な関与,遺伝的脆弱性と環境要因の相互作用などが挙げられる。治療的介入には,発達期の脳に不要な影響を及ぼさない,分子生物学的機序に特異的な標的が必要である。自閉スペクトラム症をより良く理解して有効な治療的介入を見つけるためには,ゲノム,死後脳,神経生理や脳画像,モデル動物やiPS細胞の研究成果と臨床の知見を繋げることが求められる。