日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
恐怖を司るシナプス多様性
平野 恭敬
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ジャーナル オープンアクセス

2025 年 36 巻 2 号 p. 75-79

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抄録
脳神経ネットワークを形成する最小ユニットであるシナプスは,ヒトの脳では1,000兆にも概算される。シナプスは神経細胞に単純なつながりをもたらすだけではない。生化学的に性質の異なるさまざまなシナプスは神経回路の調整を行うことで固定的な神経ネットワークを変化させ,結果として動物の行動に多様性を生み出している。恐怖応答を例にとると,恐怖の対象となる脅威の感受性,恐怖情動の発現,恐怖による行動の表現といった恐怖応答の多段階でシナプス制御がある。注目すべきはこれらの過程は定性的なものではなく,動物の内的あるいは外的条件に大きく左右され,シナプス制御による生化学的な神経ネットワークの調節がうかがえる。さらには恐怖曝露による恒常的な変化として,不安症,うつ病,トラウマ疾患にみられる心的状態があり,これにも多くの生化学的に異なるシナプスの関与が示されている。本稿では,恐怖応答にかかわる多様なシナプスを俯瞰したい。
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© 2025 日本生物学的精神医学会
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