抄録
現在,地球規模で生物多様性が喪失されつつあり,生物多様性損失速度を減少させることや,これらから受ける生態系サービスの公正・衡平な配当を目指すための国際会議である生物多様性条約CBD-COP10が2010年に名古屋で行われた.2010年は生物多様性“年”と言われる程,企業や社会が生物多様性へ注目を集めてきており,この前後で産業セクターが生物多様性保全の取り組みを強化していることが予想される.そこで本研究では,水産農林・紙パルプ業,建設業,食品業を対象として,生物多様性条約CBD-COP10の前後である2009年と2011年の2時点で,企業の生物多様性保全の活動の傾向をCSR報告書から分析し,取り組みの進展度合いの評価や具体的な生物多様性保全活動事例の傾向を類型化した.その結果,生物多様性保全活動を報告する企業が20%から60%,生物多様性保全活動の事例数も55から143に増加したことが明らかになり,また保全活動の内容がより各業種の事業の持続可能性に関連するような内容に変化している傾向を明らかにした.そして今後,各セクターの本業が持つ生態系との繋がりを考慮したうえで,そのセクターにとって本業と相乗効果があるような活動事例が何かを分析し,それらの活動の優良事例や保全効果をデータベース化して共有することの重要性を提案した.