2014 年 70 巻 6 号 p. II_175-II_182
2010年10月中旬に試験湛水を開始した嘉瀬川ダム(佐賀県)の上下流において,試験湛水の開始前後で堆積・流下有機物FPOM(FPOM : Fine Particulate Organic Matter, 粒径:1μm~1mm)に生じる影響を量的・質的に評価した.主要な変化として,炭素・窒素安定同位体比を用いた評価では,St. 2,St. 3(ダムサイトからそれぞれ2.2km,11.7km下流)において,試験湛水中の春(4月)の窒素安定同位体比が試験湛水前に比べて顕著に上昇した.この要因として,春季にダム湖表層で発生した植物プランクトンが下流へ流下し,これらが流下する過程で堆積したためと考えられた.以上より,試験湛水中におけるダム下流の堆積有機物の質は,ダム湖表層の植物プランクトンの発生状態と関係性を持つことが推測された.