抄録
メコン川流域諸国では近年経済発展に伴う水質汚染が深刻となっている.この問題を起因とする死亡率の削減には,上下水道事業に代表される生活関連型社会資本の整備が有効であるとされるが,途上国にとってその適切な実行時期を探ることはとりわけ重要である.筆者らの先行研究ではベトナム・ラオスにおいてアンケート調査を実施し,算定したWTPは被験者の所得水準や全要因死亡率といった年代に関連する指標と大きく関わることを理論的・実証的に明らかにしている.本研究では得られたオプション価格をさらに発展させ,想定事業の非利用価値を示すオプション価値の導出を図る.途上国では想定事業の便益を算定する際,支払い能力が低くサービスを利用することのできない人達を考慮する必要がある.そこで, オプション価格とオプション価値を結合することで適切な便益評価指標を提案する.終章では上下水道事業が浸透している諸国と比較し,環境クズネッツ曲線仮説との整合性についても考察する.