2019 年 75 巻 5 号 p. I_57-I_64
近年では多くのスキー場において雪不足状態が慢性化し,各営業所は人工降雪機などを導入および運用することで対応を図っている.我々の先行研究では,長野県を対象としてパネルデータ解析を実施し,スキー場来客数の減少と温暖化現象との統計的な関係について考察している.本研究においては,そこで得られた解析結果と知見をさらに発展させ,冬山レジャーに与える温暖化による将来経済被害額の算定を図ることを目的とする.具体的には,独自に全国都道府県を出発地,各地域の代表的なスキー場を目的地とする,OD交通データベースを構築して,旅行費用法(TCM)を適用する.構築する訪問需要関数には気象変数が説明変数として組み込まれており,これに代表的な全球気候モデル(GCM)であるMIROCの出力を与えることで,気候変動による長野県スキー場への長期的な来客数の減少を見積もる.県全体における経済被害額はTCMで導出される消費者余剰(CS)の総和の減少分として見積もられるが,この五十年でRCP2.6シナリオでは3.04億円/年,RCP8.5では6.26億円/年,さらにこの百年ではRCP2.6では4.96億円/年,RCP8.5では24.43億円/年と算定された.特に最後の値は長野県の冬季レジャーの有するCSの35.6%にも匹敵するものであった.