2019 年 75 巻 6 号 p. II_239-II_246
本研究では,有明海におけるノリの色落ち対策である下水放流水の溶存無機態窒素(DIN)の処理レベルを緩和すること(下水処理緩和運転)がノリ養殖場への栄養塩供給にどのような効果を与えるかを検討した.栄養塩類の効果には移流・拡散の物理現象を考慮した物質輸送モデルを用い,ノリ不作年を対象に下水処理緩和運転によるノリ養殖場へのDIN濃度の寄与を解析した.その結果,ノリ養殖期に下水処理緩和運転を既に実施している各下水処理場地先では,この緩和運転によりノリ養殖場のDIN濃度が上昇し,降水量が少ない年ではDIN濃度を10~20%増加させると見積もられた.さらに,佐賀県西部海域に放流している処理場で緩和運転を行うと,ノリの色落ちが生じやすい佐賀県南部海域のDIN濃度を4%程度増加させると試算された.